Russia どちらからともなく手を引いて寝室へと向かった。セントラルヒーティングで暖かいとはいえ、繋ぐ手にじんわりと汗が浮かぶのは、お互い緊張しているからだろう。どちらも一言も発しない。何を言えば良いのかもわからない。顔を見ることすらできない。薄暗い廊下を進む足取りが殊更ゆっくりとしたものなのは、迷いがあるから。 だって本当にこれでいいの?このまま寝室に入って、僕達は何をするの? 仕掛けたのは自分。罠に掛かったのは彼。せっかくの獲物を美味しく頂けばいい。切ない想いを抱える者同士、痛みを和らげる麻酔のように関係を持てばいい。そうすればきっともう淋しくない――なんて、思っていたけれど。 そんな訳、ない。 だって、僕の心は変わってしまった。フランス君を見ても以前程胸が苦しくなることはない。憧れは今でもあるけれど、彼のやさしい微笑みに心は踊るけれど、浅ましくも触れて欲しいだなんて願いは、もうない。その代わりにふとした時に思い浮かぶのは・・・カナダ君。 変わってしまった僕の恋心。あぁだけど、彼は違う。彼の心はいまだイギリス君にある。 こんなのフェアじゃない。僕だけが恋している。彼は傷ついた心に付け込んだ僕に流されているだけ。きっと彼は後悔するだろう。僕は・・・後悔せずにいられる?交わることのない心を抱えたまま身体を重ねて、どれだけ残酷な結果に繋がるのか。 なのに、あっさりと僕達は寝室へと辿り着いてしまった。扉を前に僕は一層焦燥に駆られる。どうしよう、どうしよう。自分が蒔いた種とはいえ、先に進むことが怖い。だけど僅かに生まれた欲が、後に引くことを惜しむ。だってこの機を逃せば二度とこんな状況にはならない。これからカナダ君は僕に対して距離を置くに違いない。そんなの、嫌だ。 きゅっと唇を噛んで俯いた僕の髪を、そっとやさしい指が梳いていく。 「怖いですか?僕が」 「カナダ君のこと・・・怖いなんて思ったこと、ないよ」 「僕は怖いですよ、貴方が」 「僕が社会主義で東側だから?」 「政治的なことは関係ないです。貴方という人が純粋で綺麗だから、僕が触れたら壊れてしまいそうで・・・怖い」 そんなこと、と笑おうとしたけれど、カナダ君が微かに震えていることに気付いて口を閉ざす。まさか本気で思っているの?僕のこと綺麗だって。そんなことないのに。壊れることを怖れるなんて、大事に想われているみたいだ。勘違いしてしまいそう。 「綺麗なんかじゃないよ・・・僕は汚れている」 君で遊ぼうとして、罠を仕掛けて、敢えて傷つくように仕向けて。僕は狡くて卑怯で最低だ。君は知らないだろうけど。僕が触れたらカナダ君が汚れてしまうんじゃないかな。触れた先から黒ずんでいくカナダ君を想像して、自虐的な笑みが零れる。 カナダ君は困ったように首を傾げて、そっと両手で僕の頬を挟み込んだ。互いの吐息がかかる程の至近距離、視線を絡め取られる。僕の汚い心を見透かされるようで逸らしたいのに、真摯な紫紺の瞳がそれを許してくれない。彼は・・・真剣に、怒っていた。 「そんな風に自分を卑下して嗤わないでください。そんな顔、貴方に相応しくない。貴方にはもっと幸せに笑って欲しいんです」 「カナダ君・・・」 「もちろん、僕じゃフランスさんの代わりにならないのは、わかっていますけど」 唐突に降ってきた予想外の言葉に、僕は自分を制することもままならず、びくりと震えてしまった。大きく瞳を開いて見つめる先、カナダ君の顔は変わらず穏やかな笑みを浮かべていた。 「わかっています、貴方が本当に好きなのはフランスさんですよね。いつだって僕にあの人を重ねて見ていた。なのに、ごめんなさい」 「どうして・・・謝るの」 知られていたことに驚いて唇が戦慄く。混乱する頭では言い包める台詞ひとつ浮かばず、ただ掠れた声で彼の言葉の一端を問い質すのみだった。彼は律儀にそれに答えを返す。ばつが悪そうな顔をして。 「貴方の気持ちを知っているのに、ベッドへ誘ったから」 つまみ食いを叱られた子供のような顔でそんなことを言うから、強張っていた身体から力が抜けて、思わず笑ってしまった。 本当に彼は素直で表情豊かだ。思ったことがすぐに顔に出る。そんなで本当に僕とセックスするつもりだったの?初心な坊やみたいなのに。 そうして気付く。カナダ君は僕が仕掛けた遊びだと知っていたのに今まで付き合ってくれていたんだ。僕がフランス君のことを好きだと知りながら此処まで来たんだ。それは、僕に同情したから?それとも同じ痛みを知る僕になら心のうちを明かせるから? どちらでも構わない。やさしいカナダ君が辛い時に僕の家を訪って、僕を望んでくれたなら――僕は持てるすべてをあげるまでだ。 「誘ったのは僕だよ。君が傷ついているのに付け込んだんだ」 「付け込むなんてそんな、自分を悪者みたいに言わないでください」 「僕は悪いヤツだよ?皆言ってる。僕のこと悪くて怖くて何考えているかわからないって。ふふ、可笑しいよね、何考えているかわからないのに悪いって決めつけるなんて。まぁ間違ってはいないけど」 「貴方はそんな人じゃない」 紫紺の瞳が真っ直ぐに僕を射抜く。 フランス君に愛されて育ったからだろうか・・・それともイギリス君に育てられたから?違うよね。根本的に、彼の心が綺麗なんだ。真っ白な雪のように無垢な心。きっと僕が触れたくらいじゃ汚れたりしない、毅い心。薄汚れたこの身体でも僅かな温もりさえ与えることができれば、一時の慰めになるだろう。 「来て」 迷いを捨て、寝室の扉を開く。入り口で躊躇うカナダ君を置いて部屋に入ると、闇の中手探りでベッドサイドの灯りを点ける。そうしてゆっくりとした動作で纏う衣服を脱ぎ捨て、一人ベッドに腰を下ろした。ぎしっと軋む音と共に僕の心臓がどくどくと高鳴る。全身の血が忙しなく駆け巡る。身体の震えが止まらない。 これからこの場所で、僕は彼に抱かれるんだ。 「カナダ君、来て」 なるべく事も無げに見えるように微笑んでみせた、つもりだったけれど、たぶん引き攣った笑みになっていただろう。だけどカナダ君は僕の誘いに乗って部屋に入ってきた。ノロノロとした足取りで近付いて来て、腕を伸ばせば届く距離で立ち止まる。 「ロシアさん、僕は・・・貴方のことを大切に思っているんです。本当に・・・」 「僕もだよ。僕ね、君のこと、好きなんだ」 かつて口に乗せた嘘に本当の気持ちを隠して伝える。大丈夫、これは遊びだから。君は僕を抱いて傷ついた心を癒せばいい。それ以上求めないから。僕はただ、君に触れて欲しいだけ。たった一度きりでいいから。 「僕は・・・僕は」 「ねぇカナダ君、お互い目を閉じよう。目を閉じて、瞼の裏に浮かんだ人と愛し合うの。そしたらきっとうまくいく。一人は淋しくて嫌だから・・・二人で幸せになろうよ」 にこりと笑って彼の手を取って、強引に引き寄せる。がくんと体勢を崩したカナダ君が慌てた風で覆い被さるのに合わせて、僕もベッドの上に身を投げた。至近距離の顔は戸惑いを露わにして、視線をあちこちに彷徨わせている。けれど紫紺の瞳の奥に、僅かだけど欲が浮かぶのが見えたから・・・安心して、僕は瞳を閉じた。 幾許かの沈黙の後、やわらかなものが僕の唇に重なった。 最初はそっと触れるだけだったキスは、徐々に熱を帯びて深められる。何度も角度を変えては押し付けられ、吐息すら奪われるように激しく吸われた。 「・・・んっ、ふ・・・んん・・・っ」 侵入してきた舌が敏感な口内をじっとりと舐めまさぐっていく。僕も舌を突き出して婀娜っぽく絡めてみせる。合わさる粘膜がぴちゃぴちゃと厭らしい水音を立てて、静かな室内に響く。混ざり合った唾液をこくんと飲み干せば、カナダ君は一層激しく吸い上げ、僕の唇の端から零れたものを舐め取った。 薄っすらと目を開いて見上げれば、カナダ君は僕を凝視していた。いつもはやわらかな色を湛える瞳が、仄かな灯りを受けてギラギラと獰猛な光を宿している。 喰われる――そう思った。この雄に、自分は捕食されるのだと。温厚な彼にこんな一面があったなんて。僕とのキスに彼は今興奮している。違う、イギリス君へのキスを夢想しているんだ。それなら目を瞑ればいいのに。 「好き・・・貴方が、好きなんです・・・」 「知ってる。だから、いいよ」 身代わりに、抱いて。心から望んで微笑むと、彼はぎっと奥歯を噛み締めて、僕の首筋に噛み付いた。 貪るように唇が押し当てられ、きゅうっと強く吸われる。鎖骨、胸へと滑り、僕が此処にいることを確かめるように痕を付けていく。擽ったいようなもどかしい快感に身を捩らせたら、思ったより熱い掌に腹を押さえられた。そうして性的な意図を持って撫で回され、ぞわりと総毛立つ。 初めての肌の触れ合いに、どうしたらいいのかわからない。ただカナダ君が与える熱が僕に移って身を焦がしていく。熱い、温かい、このまま溶けてひとつになればいいのに。 「あっ・・・ん!」 微かに指が胸の頂きに触れて、腰が跳ねた。女の子みたいに胸が感じるなんて恥ずかしい。慌てて違うと呟くけれど、彼はにこりと笑顔を見せて・・・きゅっと摘み上げた。 「んぁっ・・・や・・・っ」 くりくりと親指で押し潰されながら、もう片方の乳首も唇に食まれる。舌の先で転がされると僕の其処は簡単にぷくりと立ち上がった。 「やめて・・・それ、やだ・・・!」 「敏感なんですね。そのうち慣れたらきっと気持ちよくなります」 「そんなの、知らないよっ」 擽ったいような甘い痺れが、寄せては返す波のように僕を襲う。腕を突っぱねて抵抗するのに、カナダ君は執拗に僕の胸を舐め、指で弄り続けた。恐らく真っ赤に腫れ上がっているだろう其処は、ひりひりと痛みながらも徐々にはっきりとした快楽をもたらして、僕は怖くなった。 だって、こんな風にカナダ君に抱かれて身体が変わってしまって・・・これから僕はどうすればいいの?彼はただ僕に流されて、想い人の身代わりに抱いているだけなのに。こんな夜は二度と来ないのに。 「感じてくれたんですね・・・此処をこんなにして」 男の大きな掌が、不意に僕の下腹部に伸びて、其処を掴んだ。 「ひぁんっ!」 自分の声と思えないような高い嬌声が上がった。中心の大事な処を握られて、僕は身動ぎ一つできない。目をぎゅっと瞑ってぶるぶると震える僕を余所に、カナダ君の嬉しそうな声が耳に届く。 「僕の気持ち、わからせてあげますから」 困惑から涙が滲む僕の目元に、彼はやさしくキスを落とす。そっと瞳を開いて見上げれば、彼は変わらず雄の色香を纏いながらも、どこか余裕を見せて穏やかに微笑んでいた。 「ふ・・・んんっ・・・あ、あぁ・・・あ・・・」 温かな掌が僕のペニスを包み込んで、ゆっくりと労るように上下に扱き始める。微妙な力加減で僕の快感を引き出して、先端から溢れたものをぬちゃぬちゃと塗り込めていく。ゆるく勃ち上がっていた其処は、すぐに反応して硬度を増した。はしたない水音に僅かに残った理性が羞恥を覚えるけれど、それ以上にどうしようもなく気持ちいい。 「あ、ぁん・・・や、だめ・・・も、放して・・・イっちゃ・・・」 「いいですよ、このまま」 「やだ・・・き、君の、手・・・汚れちゃ、う・・・からぁ・・・」 「大丈夫です・・・綺麗ですよ、ロシアさん」 「ひっ・・・あ、あぁぁっ、ん、ん――っ!」 名を呼ばわれて、全身が震えた。同時にぐりっと亀頭を押し潰されて、強烈な刺激から吐精する。どくどくと流れていくそれをカナダ君は掌で受け止め、おもむろに持ち上げたかと思ったら、ぺろりと舐めた。 「な、なんで・・・」 「ミルクみたいなのに、思ったより・・・苦いものなんですね」 少しだけ顔を顰めて、それでもまたぺろりと自分の手に舌を這わせて、僕が出したものを舐め取っていく。苦いのに、どうして?それ以上に、どうして――僕の名を? 「や、止めなよ・・・汚いよ・・・」 「貴方がくれたものですから、僕にとってはメープルシロップみたいに甘いですよ」 そう言って、すべて舐め啜ったことを示すように綺麗になった手のひらを僕に見せて、笑った。 「でも、それは僕のだよ・・・イギリス君のじゃない。君だってわかってる癖に・・・僕の名前呼んだりして」 「もちろんわかっていますよ。ロシアさん、貴方のものだから僕は口にしたんです。まだわかりませんか?僕が、貴方を愛しているって」 紫紺の瞳が意味ありげに、きゅうっと細められた。こてんと可愛らしく首を傾げるカナダ君の顔を呆然と見遣る。知らない言語で話されたように、カナダ君の言葉が理解されずにぐるぐると脳内を駆け巡る。 だって、わからない。カナダ君はイギリス君のことが好きなんでしょ?イギリス君への叶わない恋に疲れて、傷ついて、泣いて、僕の処に来たんじゃない。同じ痛みを抱えている――と思っている僕になら、その辛さを打ち明けられるから。 なのに、どうしてそんなことを言うの?愛している、なんて。 「嘘」 「嘘じゃないです。僕の偽りない、気持ちです」 「嘘だよ・・・だって、君は言ったじゃないか、イギリス君のことが好きだって。今日だってイギリス君とアメリカ君が恋人関係だって見せつけられて、ショック受けてたでしょ?だから僕の処に来たんでしょ!?」 起き上がりながら叫んで、手元にあった枕を思い切りカナダ君に投げつけた。そうしてから身体を丸めて膝を抱えると、両手で耳を塞ぐ。カナダ君の手が幾度も伸びて僕に何かを耳打ちしようとするけれど、その度に僕は彼の手を振り払って聞きたくないと首を振った。 わかってる、カナダ君は僕を愛していない、僕じゃない。わかっているから期待させないで、夢を見せないで、お願いだから! ふと、僕の剥き出しの足の甲に、柔らかなものが触れた。何かと気になって目を向けると、彼は敬虔な信者のように跪いて僕の足に唇を寄せていた。 「何・・・してるの」 「懺悔してもいいですか?」 顔を上げないまま彼は囁く。冷えきった僕の足に微かに吐息が降り掛かって擽ったい。何も応えずにいれば、カナダ君はゆっくりと面を上げて、真っ直ぐに僕を見つめた。 「僕は今日、嘘を吐きました」 「僕を愛してるって?」 「違います、僕が此処に来た理由です」 紫紺の瞳が確かな決意を秘めて煌めいている。返す言葉もなくその強い光に魅せられていると、彼は傍にあった毛布を手繰り寄せて広げ、そっと僕に掛けてくれた。・・・そういえば僕だけ裸だった。思わずかぁっと赤面して毛布に包まる。カナダ君も頬を赤らめてふふっと笑った。そうしてから居住まいを正すと、訥々と懺悔を始めた。 「アメリカの莫迦が僕との約束を忘れて、イギリスさんとデートしていたのは本当です。あいつときたら、いつもいつも僕のこと蔑ろにしてうっかり忘れただの気付かなかっただの影が薄いだの好き放題・・・あ、いえ、なんでもないです。えぇと、それで・・・ばっちり現場に出食わしてしまったんですけど、二人の姿を見ても僕は平気だったんです。不思議なくらいに・・・落ち着いていられた。もちろん今でもイギリスさんのことは好きですよ。けどもう・・・苦しい恋じゃなくなったんです。それは、貴方のお蔭です。貴方がいつも僕の傍にいてくれたから・・・幸せだったから。僕はいつの間にか新しい恋をしていたんです。気付いたのは、最近ですけどね」 とりあえずカナダ君の口から出たアメリカ君に対する不満は、後で僕が呪詛で解消してあげるとして、今は彼の恋のことだ。イギリス君への想いが消えた訳じゃない、でも、苦しくなくなったの?平気になったの?それはまるで昇華したみたいに。僕がいたから?新しい恋を――それは、もしかして。 「貴方はフランスさんを慕っている、わかっていました。だけど想いを遂げられずにいることも知っていた。だから・・・策を弄したんです。僕が傷ついていると知れば、やさしい貴方は慰めてくれるんじゃないか、貴方の関心を引けるんじゃないかって。・・・そう、最低なことを考えていたんです」 カナダ君は哀しそうに瞼を伏せると項垂れて、震える声で呟いた。 「もし貴方が手を差し伸べてくれるなら、その身体に触れることも許されるんじゃないかって――卑怯なことを考えて、此処に来たんです」 淡々と紡がれる言葉を、僕は信じられない思いで聞いた。ついさっきまで叶わない想いの遣る瀬無さに打ちひしがれていた心は、単純なまでに希望を見出して高鳴っている。どくどくと熱い想いが血流に乗って激しく全身を駆け巡る。 だって、まさか僕のことを好きになってくれる人が存在するなんて。それが僕の恋する人だなんて、そんな奇跡みたいなことがあるの?想いを通わすことが・・・僕にもできるの? 知らず、涙が溢れて頬を濡らした。項垂れたまま僕を見ようとしないカナダ君に、そっと尋ねる。 「カナダ君・・・僕のこと、好きなの?」 「・・・はい。でも望みがないのはわかっていますから」 「そんなことないよ。僕も君のこと好きだよ」 「もう、そんな嘘は・・・」 「違うの、僕も変わっちゃったの。そりゃ最初は君の言う通りだったよ。でも今は違う、君が好き。好きなの・・・身体だけでもいいって思っちゃったくらいに、好きだよ、カナダ君」 もう我慢できなかった。想いが爆発したかのように身体が勝手に動いてカナダ君に抱きつく。彼はびっくりして反射的に僕を受け止めると、躊躇いがちに背に手を回した。 「ほ・・・本当ですか?僕なんかでいいんですか?」 「君なんか、じゃないよ・・・君がいいの」 カナダ君にぎゅうぎゅうしがみついて泣きじゃくりながら訴えれば、彼はぎこちない仕草であやすように僕の背を撫でてくれた。そうして、そっとベッドに再び寝かされる。見上げるカナダ君の顔は、いつものように穏やかでやさしい微笑みを湛えていた。 温かな掌が熱を与えながら撫ぜていく。やわらかな唇が痕を残しながら滑っていく。その度に僕の身体は意思に反してひくひくと震えて、体内に埋め込まれた肉棒を締め付けてしまう。喉の奥から零れる嬌声が恥ずかしくて手を口で塞ぐけれど、堪えきれない分が甘い吐息と共に漏れている。その手もカナダ君の手に取られ、シーツに押し付けられてしまった。 「我慢しないで聞かせてください・・・貴方の声、すごく色っぽい・・・」 「そ、んな、訳・・・あ、ぁんっ!」 ずるりと引き抜かれればわけのわからない快楽に襲われ、結合部が離れる寸前、再び肉襞を押し開くように貫かれると勝手に口から高い声が迸る。繋がった場所が熱い。体内に異物が挿入っているのはものすごい違和感なのに、気持ちいい、なんて。自分の身体の変化が信じられない。 服を脱いだカナダ君のそれを見た時は絶対挿入らないと思ったのに、彼の指で丹念にじっくりゆっくりしつこいくらいに弄られた僕の其処は、予想に反して呆気無く受け容れた。もちろん苦しいけれど、辛いけれど、でもそれ以上に嬉しかった。愛し合って身体を繋げられたことが幸せで、涙が溢れた。 「は・・・ぁ、ロシアさんの此処・・・すごく熱くてトロトロですよ。本当に、初めてなんですか?」 「決まってる・・・じゃない、はじ、め・・・て、ふぁんっ!やっ・・・あ、ぁあん・・・!」 焦らすように軽く揺するだけだった癖に、僕が応えている最中にいきなりずぶっと奥まで突っ込んでくる。女の子みたいな声をあげてしまったことが恥ずかしくて恨めしげに見上げるのに、カナダ君は嬉しそうに笑みを深めた。絶対確信犯だ、意地悪! 「でもほら、僕のに絡み付いてくる。ふふっ、えっちな身体なんですね」 「違・・・ひぁっ!あ、あふ・・・んっ!も、そこ、ばっか・・・や、あぁん・・・っ!」 ごりごりと僕のイイトコを抉るように先端が擦れて、どうしようもなく感じてしまう。嬌声が止まらない。快楽から逃れたくても、がっちりとカナダ君の手指に掴まれた腰はゆらゆらと揺れるだけ。まるでいやらしく誘うみたいに。 あぁだって本当に気持ちいい。僕の身体はあっという間に作り替えられてしまった。彼を悦ばす為に身体を開いて腰を振って、歓喜に涙を流す。好きな人に愛される幸せ。心にじんわりと温もりが広がっていく。 「はぁ、はぁ・・・ロシアさん、白い肌が淡いピンク色に染まっていて・・・可愛い・・・」 「やだ・・・そんな、ことぉ・・・あっ、ひぅ・・・み、見ない、で・・・っ」 カナダ君の視線から逃れるように首を振れば、髪がシーツに落ちてパサッと乾いた音がした。中にたっぷり注がれたローションと彼の先走りと僕の体液が混ざり合う、湿っぽい音がぐちゅぐちゅと部屋に響く。二人分の体重が掛かったベッドがギシギシと軋む。そんな淫らな音すらも、僕達の興奮を高める材料にしかならない。 靄が掛かったような頭ではまともなことは考えられず、ただ与えられる熱を甘受して、壮絶な射精感に耐える。それも、限界に近い。 「か、カナダ・・・くん、僕、もう・・・無理ぃ・・・ひゃっ・・・あ、あぅん・・・っ」 「っ・・・は、ぁ・・・もうちょっと・・・だけ、我慢してください・・・僕、まだ・・・」 「あっあ・・・やだ、よぉ・・・さっきも、そう言っ・・・ふぁ、あ、あ・・・」 「ま、まだ貴方を、感じていたい・・・ロシアさん・・・僕、夢、みたいで・・・」 「夢、じゃ、ないよぉ・・・あ、あ、も、ダメぇ・・・イっちゃ、イっちゃう、よぉ・・・っ!」 「待って・・・」 「ダメ、だめだめ・・・ひうっ!あ、あぁんっ、ひああああっ!!」 カナダ君の制止の声も、僕の意思にもどうすることもできなかった。腹につく程そそり勃った僕のペニスからは、粘性の高い白濁が派手に飛び散って僕とカナダ君の腹を、胸を汚していく。びゅくびゅくと迸るそれに合わせて身体は強く収縮して、甲高い嬌声を上げながら僕は果てた。 「はっ・・・あ、ぁ・・・」 吐精後の強い倦怠感に襲われ、全身から力が抜ける。目を閉じたままぐったりとベッドに身体を預けてしまえば、気持ち良い睡眠へと誘われた。けれど。 「・・・まだ、ですよ、ロシアさん」 上から何かを堪えるような声が降ってくる。ずるりと引き抜かれた熱い杭は再び陰嚢が触れる程奥まで打ち込まれ、僕の身体は否応なしにびくりと震えた。 「ちょっ・・・待って、僕、イったばかりで・・・っ」 「わかっています、ものすごい締め付けでしたから・・・でも、まだまだこれからですよ?」 見上げる紫紺の瞳ははっきりとした欲情を滾らせて、ギラギラと輝いている。それ以上に、何度も見てきたこの顔――譲らない時の、表情。いつも穏やかでやさしくておっとりしている癖に、時にひどく頑固になる、ものすごくイイ笑顔で。 中にあるものが存在を主張するように一際膨れ上がる。凶暴ささえ窺える程に。これはまずい。もしかしてカナダ君・・・アレ、なのかな?遅漏の絶倫とか、そんな怖ろしい可能性。 ざぁっと全身から血が引いていく。慌ててヘッドボードの方へと逃れようとする僕の腰を、容赦なくカナダ君は掴んだ。食い込む指がちょっと痛い。それ以上に怖い。 「む、無理!ちょっとだけ、休ませて・・・」 「ダメです。もっと感じて乱れてぐちゃぐちゃになってください。僕のこと、忘れられない身体にしてあげますから」 振り回す僕の腕をあっさり掴んで押さえ込んだカナダ君は、にっこりと最高の笑顔を見せながら・・・とんでもない宣告をしてくれた。おもむろに動き出した彼の思う様に、再び身体を貪られる。烈しく口づけられ中をぐちゃぐちゃと掻き回されて、僕の意識は押し寄せる快感の波にあっさりと飲み込まれた。 煩いくらいに喘ぎながら頭の片隅でぼんやりと思う。明日はきっとベッドの上で過ごすことになるのだろう、彼の腕に抱かれて。 温もりを分かち合いながら。 ―おわり― |