France/USA/UK 俺の家はカフェじゃない。 確かに料理の腕はそこら辺のシェフ顔負けだし、ソムリエの資格を持つ俺が蒐集したワインはどんな料理でも引き立てるよう種類豊富、あとフランス産に間違いなし。デザートもパティシエ並、合わせて提供するカフェオレはバリスタが淹れたものに劣らない。部屋の内装はハイセンスに纏められて居心地が良いのも否めない。 だけど、此処はあくまでお兄さんの部屋なんです、プライベートな空間なんです。決してお前らが好き勝手に出入りして、テレビを占領してゲームをしたり床にうず高くエロ本を積みげたりソファセットを陣取って寝そべったりして良い場所じゃないんです。ていうかほらまたアイスが零れた!絨毯が染みになっちゃうから早く拭いて・・・足でなすりつけて誤魔化すなぁぁぁっ!!それやったら余計に被害が広がっちゃうって何度も言ってるでしょ!!このバカしつけたはずの元保護者も何か言ってやって・・・ダメだ、こいつエロ本ガン見してて周り見てやしねぇ。 なんでこうなった。俺が何した。そりゃちょっと前の状態よりはマシになったけど、俺が望んだのはこういうことじゃない。かつての穏やかな休日を返して。 二つのココロ 「お前ってさ、誰でもいいんだろ?」 そう切り出したイギリスの横顔にゆっくりと視線を向ければ、奴は相変わらず遠くを見据えるように壁に並んだボトルを眺めて、口元だけきゅっと弧を描いて揶揄するように哂った。 「何その言い草。一応俺にだって好みくらいあるけど?」 「好み?ふざけんなよ、誘われたら拒まねぇ癖に」 片眉をひょいと上げてさらりと否定する俺に、イギリスははんっと鼻で嗤いながら手にしたグラスをぐいっと呷る。空になったそれをタンっとカウンターに打ち付けると、即座にバーテンダーが注文を伺いに寄って来る。再び強めの酒を注文する辺り、またこいつは酔い潰れるつもりらしい。 別にイギリスは酒に弱い訳じゃない、むしろ強い方だ。けれどアルコール度数の高い酒ばかり、それもストレートで間髪置かずに飲み続ければ、どんな酒豪でも潰れる。いい大人なのだから自分の酒量くらい弁えれば良いのに、この男は俺と一緒に飲む時に限ってヤケ酒に近い飲み方をする。 「てめぇのムカつく髭面見ながら優雅にグラスを傾けるなんざ馬鹿らしい」 いつだったかこいつは悪びれなく宣ったけれど、俺と飲むのが嫌ならそもそも同席しなければ良いことだ。単に千年の付き合いで今更紳士を気取る必要もないので素が出るだけだろう。 手の中のグラスを弄びながらちらりと横目で隣に座るイギリスを窺い見れば、肌蹴たシャツの隙間から仄かにピンク色に染まった薄っぺらい胸と小粒の突起が見えた。思わずこくんと喉を鳴らし、慌てて視線を逸らして誤魔化すように酒を呷る。 まったく性質が悪い――。普段きっちり襟元までボタンを嵌めて肌の露出が極端に少ない禁欲的な姿でいる癖に、一旦酒が入れば潔いまでに素肌を晒す。なんだお前、俺を誘ってんのか。 はぁと熱く酒臭い息を漏らすイギリスの様子に、落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせる。此処にいるのはあの凶悪眉毛、俺の敵!ちょっとばかり顔は好みだけど、腰も細くていいなと思うけど、中身はあの獰猛で狡猾で冷酷な元ヤンなの!!だからお兄さんの分身はちょっと落ち着きなさい、下手に動けばちょん切られちゃうよ!? 「なぁ、いつもつるんでる連中ともヤったのかよ?」 「それってスペインとプロイセンのこと?お前俺をなんだと思ってんの、ヤる訳ないでしょ」 「なんで」 「スペインはロマーノしか興味ないし、プロイセンはノンケだよ。無理」 軽く笑って手をひらりと振れば、イギリスは挨拶でもするようにまったく口調を変えずにさらりと一言呟いた。 「じゃあ俺は?」 ぶほっと思わず酒を噴き出してしまった。ゲホゴホと激しくむせていればバーテンダーがさっとタオルを差し出してくる。それを口に宛ててなんとか呼吸を整えながら、ピシっと凍結してしまった思考でぐるぐると発言の意図を考える。今こいつ何て言った?ねぇ、何言っちゃってんの!?まさか本当に誘ってんのか!?うわっ有り得なーい! ぎぎぎと首を無理矢理動かしてイギリスの顔を視界に入れると、奴はぽわっと頬を朱に染めて、熱っぽく潤んだ翠の瞳でじっと見つめていた。カウンターに腕を乗せて斜めに見上げてくるその表情は、ぶっとい眉毛さえなければ色っぽくて唆る。挑戦的に投げられる視線を受け止め、顎を取って薄い唇にキスしたい。細い腰に腕を回して今すぐお持ち帰りしたい。 眉毛さえ直視しなければ、きっと一晩楽しめるだろう。 けれど、俺は気付いてる・・・それがイギリスの本心ではないことに。俺を試して遊んでいるだけだ。俺が真に受けて手を出したら、「冗談に決まってんだろ、ば――か」と、ものっっっすごく憎たらしい顔で哂うに違いない。事実、口元が震えて歪んでいる。その手に乗ってたまるか。 「わかった、坊ちゃんもう完全に酔っ払ってるのね。そろそろ帰ろうか」 がたんと席を立って勘定を済ませると、イギリスの腕を掴んで強引に立たせる。 「んだよ、まだ酔ってねぇよ」 「酔っ払いは皆そう言うの。明日も会議でしょうが、早くホテル帰って寝なさい」 よたよたと覚束ない足取りのイギリスの片腕を肩に回して支えてやりながら店を出る。やさしいお兄さんはそこら辺の道端に捨て置くようなことはしません、わざわざ部屋まで連れて帰ってあげます。まぁ単に会議のホスト国である日本に用意された部屋が同じホテルなだけだけど。ついでと言えばついでだ。 エレベーターに乗り込んでイギリスが宿泊している部屋の階に降りたところで、ばったりアメリカに出食わした。 「おっと・・・お前もこの階だったか?」 イギリスを引き摺りながら歩を進めて尋ねれば、壁に身体を預けて腕を組んでいたアメリカはふるりと首を横に振って否定した。 「イギリスに用があってね。・・・君達また飲んでいたのかい。そんなで明日の会議に支障をきたさないでくれよ。まったく少しは自重できないのかい?」 肩を竦めて少しばかり険悪な視線を寄越しながら嫌味を言う。いつものことだ。イギリスが大好きなこのお子様は、俺がイギリスと一緒にいるだけで気に入らないらしい。千年の付き合いのほとんどをどつき合いと小競り合いと大喧嘩とで過ごしてきた俺達に、そんな甘い関係など有り得ないと知っている癖に。知っていても感情が許せないのだろうか?まったく毎度毎度嫉妬に狂った視線で射抜かれるのも煩わしい。俺がイギリスを?・・・ねぇよ。 「お兄さんはそんなに飲んでないんだけどねぇ。こいつはどうかな・・・用事って明日の会議資料のことか?今のこいつに言ってもわかんないかもね」 苛烈な視線の意味に気付かない振りをして軽い口調で言えば、アメリカはやれやれと言った風情で溜息を漏らした。 「そうだね、バーに向かう前に捕まえられなかったのが失敗だったよ。でも一応話は通しておかなきゃいけないからね、俺がこの人引き取るよ」 「お、任せていいか?いやーお兄さんも年だからね、こいつ担いで歩くのも結構辛いのよ。後は適当に水でも飲ませて寝かせてやったらいいから。もう絶対酒は渡しちゃダメだからね!?」 差し出されるアメリカの腕にくったりと脱力しているイギリスをぽいっと渡して、一言二言注意を述べると、さっさと踵を返す。長居は無用、これ以上お子様からねちねち云われのない嫌味を言われるのは御免だ。 「もちろんだぞ。おやすみフランス」 「ん、じゃあねー」 アメリカの挨拶に背を向けたまま手をひらひらと振って自分の部屋に向かう。あとは恋人同士、よろしくやるだろう。 ××× ぱちんと夢から醒める。そうして辺りを見回せば、俺はフランスに担がれてホテルに戻っていた。 ――またか。 胸に広がる苦い思いを噛み殺す。せっかく気持ち良く飲んでいたのに酒の味すら覚えていない。これじゃ飲んだ気にもなれない。けだるい身体の状態を鑑みるに、相当量のアルコールを胃に流し込んだのは間違いないのだろうけど。 フランスと飲みに行った。会議で喧々囂々やり合った後、まだ腹の虫が収まらないので場所を変えて舌戦を交えるつもりだった。まぁ結局は飲み出したらお互い無駄にテンション高くなっちまってくだらない口喧嘩になって。気を取り直すように高い酒を酌み交わしたら、今度は下世話な話に流れていって。それから・・・後の記憶がない。 エレベーターを降りたところでフランスとアメリカが淡々と幾つか言葉を交わし、俺の身体はアメリカの腕に預けられた。酔っ払った俺を引渡したフランスは、肩の荷でも下ろしたかのようにあっさりと遠ざかっていく。目を向けて見送ることなくアメリカの胸に顔を埋めて、ただ意識だけをそちらに向ける。 くそ髭の靴音が完全に聞こえなくなってから、はぁと思わず溜息を零せば、ぎしりと身体を支える手指が背に食い込んだ。 「・・・彼、行っちゃったよ」 アメリカの静かな声が頭上から降ってくる。 「・・・わかってる」 「また、彼と飲んでいたんだね。探したんだぞ」 「・・・悪い」 なんとか力の抜けた膝を叱咤して自分の足で立ち、身体を離してからゆっくりと目の前に立つ男の顔を見上げる。その顔は、奇妙な形に歪んでいた。 「今日はやさしくできないかも。覚悟してね」 「・・・・・・」 怒りに満ちた瞳を見るに耐えなくて視線を床に落とした。不意に手を引かれ、ぐらぐらと揺れる視界の中を必死に足を交互に出して付いて行く。向かう先は俺の宿泊する部屋だ。 今日もまた、ひどく抱かれるのだろう 「・・・んっ、は、ぁう・・・・・・っ」 ぐちゅぐちゅと男の尻を犯しているとは思えない粘ついた水音が響いている。ひっきりなしに漏れる自分の喘ぎ声と、後ろから俺の中を貪り続ける男の荒い息も合わさって、まったく聞くに堪えない。どこのゲイ・ポルノだコレは。 「あ、あっ、あぅ・・・ん、ふ・・・あぁぁ・・・」 もう何度飛沫を浴びたのだろう。たっぷりと注がれたローションとアメリカの白濁と俺の腸液が混ざり合う、その耳障りな音を聞きたくなくて耳を塞ぐ。けれどすぐに後ろから大きな骨ばった手が伸びてきて、俺の手はシーツに縫い止められてしまった。 逃れることもできず耳を塞ぐことも許されずただ無理矢理嬌声を上げさせられ、四つん這いになって尻を高く上げて秘部を晒す。獣の交尾のようなこの体位は、アメリカがヤりやすいからそうしてるのか、それとも俺の人としての尊厳を傷つける為か。 ――もしかすると俺の顔を見たくないのかもな。 俺を愛してると言いながら愛のない行為を続けるアメリカの胸中に思いを馳せて自嘲気味に哂えば、ずんっと激しく奥に突き立てられて「きゃうっ」と女のような声が漏れた。 「集中しなよ、ねぇ・・・ちゃんと俺を気持ち良くさせないと、何時まで経っても終わらないよ?」 容赦なく奥をガツガツと突かれて飛んでしまいそうな意識を必死に手繰り寄せる。アメリカが満足する前に気を失えばもっと機嫌が悪くなるからだ。そうして抵抗できない間に、衣服で覆い隠せないような処に痕を付けられる。アメリカとのこんな関係、他国に、あいつに知られたくない。 「フ、ラ・・・」 それは譫言のようなものだった。決して何かを意図したものではない。だけど無意識のうちに発せられた自分の言葉を音として認識した瞬間、ざっと全身の血が引いた。同時に身体を乱暴に反転させられる。唇が触れそうな程に寄せられたアメリカの顔は、憤怒の形相だった。怒りに燃える水色の瞳に息が止まる。 「――今、君を抱いてるのは誰?」 「あ、アメ・・・わ、悪い・・・違うんだ、そんなつもりじゃ・・・っ」 「そんなつもりじゃなければ何?偶々フランスの顔が過ぎった?そうじゃないだろう?今君は、俺に彼を重ねたんだ」 「違う、違う・・・っ!」 「・・・悪かったね、フランスじゃなくて」 「ち、が・・・やっ、痛ぁぁぁっ!!」 がりっと胸の突起に歯を立てられて悲鳴を上げる。ビリっと激しい痛みに襲われた箇所は、恐らく裂けたのだろう。じんじんと痺れるような痛みが続いて思わず涙が零れる。涙に滲んだ視界で、アメリカの顔がくしゃりと歪んで見えた。 「ねぇイギリス、そんなに俺に抱かれるのが嫌かい・・・?」 部屋に入ってからずっと続けられている一方的な暴力とは裏腹な、縋るような弱々しい声音にふるりと首を横に振る。 「嫌じゃ、ない・・・愛してる・・・お前を、愛してる・・・」 「じゃあ俺の名前、呼んで。ずっと呼び続けて」 アメリカは俺の平べったい胸に顔を埋めて、ぴちゃぴちゃと裂けた胸の粒を癒すように舐め回す。幾度となく抱かれてきたこの身体は容易に痛みを快感に擦り替えて、喉からは甘い息が漏れた。 「アメリカ、アメリカ・・・アメ・・・っあ、やぁぁっ!!」 再び身を起こしたアメリカが俺の開いたままの後孔に怒張を宛てがったかと思えば、一気に貫いた。あまりの衝撃に目を見開いてびくんと仰け反る。脳髄まで麻痺してしまって指一本動かすこともできないのに、アメリカは俺を気遣う素振りなど一切見せず、ガクガクと激しく揺さぶる。 「や、ぁあっ・・・ん、待っ・・・ひ、あぁ――っ!!」 「ちゃんと呼んで!今此処にいるのは誰っ!?」 「あっ、あめ、ぃ・・・か、ひぅっ!・・・ふぁあああっ!」 ごりっと内側のいいところを抉られ、目の前がチカチカと瞬いた瞬間、ぱたぱたと精液が腹の上に散った。何度もイかされて勢いはなく、恐らく色も薄いそれをぼんやりと眺めながら、アメリカは低い声で呟く。 「そうだよ、君を抱いてるのは俺だ、彼じゃない。・・・君は、俺のものだ」 俺に、というより自分に言い聞かせているようなその言葉に、俺の心はゆるやかに闇の底へと沈んでいった。 混濁した意識でただひたすらに終わることを願う。 この行為が始まってどれくらい時間が経ったのかもわからない。好き放題に翻弄され、限界まで高められて鋭敏になった身体は、微かに肌が触れるだけでぶわりと粟立つ。過ぎた快感は苦痛でしかなく、辛くて辛くて仕方ない。 ぎゅっと目を瞑れば縁に浮いていた涙が雫になって汗とともにぽろりと頬を伝った。貫かれた直後からずっと泣いているので瞼がヒリヒリする。きっと真っ赤に腫れているのだろう。口の周りはだらだらと漏らした唾液でべとべとになっていて、俺の今の顔は相当醜いに違いない。 「あんっ、あ、あ・・・そ、こイイ、そこ・・・あ、あぁ」 「此処かい?」 「ひぅっ!そこ、そこ・・・っあ、もっと・・・もっと、う、ぁ・・・」 「いいよ、あげる・・・もっと気持ち良くなって・・・俺のことだけ考えて・・・」 「はっ・・・あぁんっ、ひゃあぁっ・・・イイ・・・んくっ・・・あめりかぁ・・・っ」 一刻も早く拷問のような状況から解放される為に、アメリカが求める声を上げ、自ら淫らに腰を振って擦り上げ、中をきゅうきゅうと締め付ける。そうすればアメリカは嬉しそうに笑った。 部屋に入った直後はアメリカのそんな欲情に滾った顔を見るのが辛かったけど、今はもうどうして嫌だったのかもわからない。理性など残していたら心が壊れてしまうので、蓋をして大事に仕舞いこんで、ただ与えられる快楽を享受して淫行に耽る。 膝の裏をきつい程に掴まれて身体を真っ二つに折られ、直腸を貫かれて馬鹿みたいにヨガる。腸壁を抉られ奥を穿たれて、また「きゃあ」と女みたいに嬌声を上げる。こんなの、正気じゃやってられない。だって俺にそうしてるのは、俺の だ。こんなの、こんなこと・・・・・・。 「ひゃ、あ・・・も、イク・・・も、だめ、だめぇ・・・っ」 「うん、俺も・・・イキそうだよ。一緒にイこうね」 「あ、あぁ、あっあ・・・やっ・・・激し・・・おく、壊れちゃ・・・っ」 もう訳がわからない。アメリカを求めるようにしがみついてあんあんと煩いくらいに喘げば、やさしく抱き締められた。愛されてる、こんな時だけその想いに縋る。ダメな、俺。 「イクよ・・・イギリス・・・」 「あ、あ、あ・・・ん、ぁ――――っ!!」 「っ、く・・・ぁ・・・・・・っ」 がつんと陰嚢が触れる程に深く貫かれ、最奥にびゅくびゅくと注がれる。中で猛々しいアメリカの怒張がドクドクと脈打つのを味わいながら、俺もドライでイった。最後の一滴まで俺にくれる為に何度か腰を揺すって、そうしてやっと体積の減ったモノをずるりと引き抜いた。 「・・・終わったよ」 欲しかった言葉をようやく貰って、俺は望んで意識を手放した。 |