France/USA/UK




 俺のポケットにいつも入っているモノ。
 財布とアイフォンとキーホルダー。
 幾つかのガムとチョコレート。
 ちょっと皺くちゃのハンカチと音楽プレーヤー。
 奥底に、小さな箱。
 俺のポケットに入っているモノはいつだって同じ。
 増えることはないし、減ることもない。


    二つのココロ


「ねぇお願い、抱いてぇ・・・」
 なんて、見目麗しいマドモアゼルに豊かな胸を押し当てられながら甘ったるい声で吐息混じりに誘われようものなら、誰しも本能の赴くままにベッドインするだろう。もちろんがっつくのはスマートじゃない、満足頂けるようにリードして精一杯ご奉仕するのもデキる男の務め。やさしく抱き寄せて甘い甘いキス、蕩けるような台詞を耳打ちしながら丁寧に愛撫を施す。
 そうして一緒に気持ちよくなれればきっと素敵な夜になる。
 だけど、それはあくまで相手が可愛らしいマドモアゼルなればこそ、だ。何気ない仕草で秘密を共有しましょうとお誘いくださるマダムの場合、経験を積んだ彼女達にはもっと刺激的で官能的な夜を演出する。たまに甘えてみせるのも効果的だ。
 ちなみに俺は相手が同性であっても全然イケる。タチだろうとネコだろうと持ち得るテクニックを駆使して相手を幸せの絶頂に導いてみせる。
 けれど。
「おい、フランス、聞いてんのか」
 ただ一人、こいつだけはないって奴がいる。
「返事くらいしろクソ髭、耳ん中までムダ毛に埋もれて聞こえねぇのか、あぁ?」
 外見は眉毛、痩せぎす、お手入れしてない肌はがっさがさ、翠の瞳だけは綺麗、頬が丸くて童顔なのもイイ、けど眉毛。
「んだよ、酔ってんのか?これっぽっちで酔っ払うとかてめぇも腑抜けたもんだな」
 中身はこの通り口が悪くて性格も悪くて凶悪で極悪非道の三枚舌。俺もどれだけ辛酸を嘗めさせられたことか。ちょっと遡るだけで涙が出ちゃう。せっかくの童顔も霞むくらい可愛げの欠片もない元ヤンで、自称紳士サマ。その癖エロいこと大好きで気持ちイイコトならなんでも試しちゃう。
 そんな、腐れ縁の男。
 こいつだけは一夜のパートナーになり得ない。絶対に。
 それなのに。
「ちっ・・・まさか酔って勃たないとかじゃねぇだろうな?」
「ちょっと、勝手に人の身体弄んないでよ、このエロ大使!ていうかお前どんな早業使ったの!なんでお兄さん下半身露出しちゃってんの!?」
「下半身つうか全裸じゃねぇか、てめぇ自分でさっき脱いでたろ」
「そうだっけ?」
 ぼんやりこの状況に至るまでの記憶を遡る。あー・・・確かに脱いだかも。酒飲んだら身体が火照って熱くなったからね。マナーがどうとか煩いことは言わない、どうせ此処は俺の家、一緒にいるのはこの腐れ縁の男のみ。気にすることは何もない。そもそもこの美しい身体を布で覆い隠すこと自体が罪だ。どうせなら美術品のように皆に鑑賞してもらいたい。
 ちなみにさっきから半眼で俺を睨んでるぶっとい眉毛ことイギリスも素っ裸だ。酒の勢いであっさりと脱ぎ捨てた。まぁそれもいつものことだから俺は気にしないけど。
 けどね、どうして俺の上に跨ってんの、お前。
 でもってなんで俺のムスコを弄ってんの。
 なんで――。
「お、勃ってきたな。じゃあヤろうぜ、お前がタチでいいからさ、抱けよ」
 とか言う話になっちゃってんの。お兄さんちっともわかんない!
 俺のペニスを扱いているイギリスの手を無理矢理剥がすと、隙を突いて身を起こす。どわっと色気のない悲鳴を上げながらイギリスがベッドから落ちたけど、知るか。わけのわからない火遊びするには面倒くさいしがらみが多過ぎるんだよ、俺とお前は。
「あのなぁ、お前だって明日仕事でしょ?莫迦なこと言ってないでさっさと寝ちゃいなさい」
「んだよ、どうせてめぇはスト起こすんだろうが。ならちょっとくらい寝不足でも問題ないだろ?」
「勝手に俺の予定表書き換えないで!つうかお前こそ朝にはロンドンに戻るんでしょ。無理すんなって」
 そう諭しながらくせの強いボサボサ頭をぽんぽんと撫でてやれば、触んなと鋭い眼光で睨まれ、べちんと手を叩かれた。おい、セックスしようと誘っておきながら頭撫でんのはダメなのか。お前の貞操観念良くわかんないよ。


 よいしょ、と年寄りくさい掛け声を発しながら再びベッドの上に乗りあげ、じりじりとにじり寄って来るから思わず後退った。ベッドの上に裸の男が二人、微妙な距離を置いて睨み合う図というのは、まったくもって馬鹿げている。
 酔いはとっくに醒めた。たぶんイギリスのこれだってアルコール摂取による奇行じゃない。だからこそ何を考えているのかわからなくて対応に困る。全身に嫌な汗が噴き出ていて気持ち悪い。
 いつもなら俺がイギリスに軽いボディタッチでセクハラして殴る蹴るの暴力で返されているのに、なんで今夜に限って迫られてんだろう。しかもどう欲目で見積もってもイギリスの行動の源に愛はない。あればこんな殺伐とした空気醸していない。
 まさかセフレになろうってのか?今更?千年腐れ縁やってきて、互いの身体に興味のある時期もあったけれど、それでもセックスするより殴る方が愉しいし蹴られれば憎らしいしで、結局そんな関係には至らなかった。
 大体お前アメリカというれっきとした恋人がいるだろう。性欲処理ならそっち使えばか。
「何間抜けな面してんだよ、俺が相手してやるっつってんだからありがたく頂戴すればいいだろ?」
 狭いベッドの上、あっという間に壁際に追いやられ、再びイギリスの手が伸びてくる。内股をするりと撫ぜられればぞくんと芯から震えた。挑発的な表情で赤い舌がべろりと唇を舐める仕草がやけにいやらしい。熱に浮かされたような表情をしている癖に、大きな翠の瞳は爛々と鋭い光を放っている。
「んな薄っぺらい身体しといてよくもまぁ偉そうな口利けるね」
 揶揄するように薄く笑ってみせたけれど、声が掠れたのは自分でもわかった。
「薄っぺらくてもケツの具合はいいはずだぜ?てめぇのチンケなナニなんざ瞬殺にしてやるよ」
 横柄な態度で憎たらしいことこの上ない台詞を吐く。にやりと哂うその顔のどこが紳士だ。こんなとんでもない女王様に欲情する筈がない、のに。
 煌々と照明の明かりに照らされた白い肌はしっとりと艶めいていて、控えめに主張している薄桃色の飾りを際立たせている。ツンと上を向いている愛らしいそれに触れたいという欲求が沸き起こると同時に、ごくんと喉が鳴った。誤魔化そうとしたけれど、イギリスは気付いて嬉しげにきゅうっと目を細めた。
 ――いいぜ、来いよ。
 声もなく唇の動きだけで誘う。蠱惑的に濡れた唇に吸い寄せられそうになるのを、必死で堪えて視線を彷徨わせれば、奴の全身に散らばる赤い華が嫌でも目に入る。それはこいつが此処に来るまで他の男に抱かれていた証。男を悦ばせ、刻み込まれた愛のしるし。
 どろりとした想いに胸焼けしながら更に視線を下げれば、しなやかな筋肉に覆われた太腿の間でひっそりと主張しているモノが目に入った。俺にもついている見慣れた男根。なのに、イギリスのモノだと思えばやけにエロい。こいつの存在自体がエロいから仕方ない。散々使い込んでる癖に綺麗なピンク色してるとか反則だ。
 そこに、イギリスは自ら俺の手を取って導いた。微かに触れるだけでも熱いペニスはひくんと震え、僅かに硬くなる。なかなかに感度は良好らしい。またごくんと唾を飲み込んだ。今度は隠そうとも思わなかった。
 重ねられた手に従ってぎこちなく掌を形に沿わすと、イギリスはふるふると身を震わせて甘い吐息を漏らした。翠の瞳は瞬く間に蕩け、白磁の頬に朱が差して凄絶な色気を発している。
 なんだお前、エロ大使だなんだと各国から言われてるけど、マジでこんなにエロいのか。ヤバいだろこれ、堪んねぇ。
 欲しい、と思った。
 思った時には目の前の薄い唇に喰らいついていた。


「ん、ぅん・・・っ!」
 烈しいキスをかましながら、掌で包み込んだペニスを緩急を付けて扱く。もう片方の手で耳の後ろを愛撫してやれば、くすぐったそうに身を捩った。逃げる身体をベッドに沈め、また唇を奪う。深く深く口付けて、呼吸すら奪う程に貪る。
「んふ・・・・・・っ」
 驚いて竦んでいる舌をじゅうっと吸い上げれば、イギリスは苦しげに眉を寄せた。切ない表情で鼻に抜ける甘い吐息を漏らすから堪らない。もうお前、ほんとエロすぎ!俺の理性粉々よ、完璧に身体に火がついちゃった。頭の片隅ではこいつと関係を持つことで生まれる面倒事にひやりとするのに、キスを止められない。
 だってこいつの唇ほんと気持ちいい。意外にふにふにとやわらかくてしっとりしてて。口内は理性を溶かすかのように熱くて甘い。紅茶と薔薇の香りが混ざって鼻孔を擽る。ねっとりと粘膜を絡めて表面を擦り合わせれば、神経がぴりりと灼き切れた。
「あ、んっ・・・ふ、・・・」
 くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃ、卑猥な水音をたてながら蕩けて混ざって一つになる。動きの鈍い舌にやわやわと歯を立てて刺激してやると、負けず嫌いのイギリスはキッと俺を睨めつけて、積極的に絡めてきた。
 俺の首の後ろに腕が回され、密着を深める。侵入してきた舌が俺の歯列を舐る。上顎を擽る。絶妙の加減で施される愛撫は確かにキスのうまい国ナンバーワンのそれで。思わず下半身をイギリスの太腿に押し付ければ、ぐちゅっと粘度の高い音が耳に届いた。見なくてもわかる、俺のペニスはすっかり勃ちあがっていて、トロトロと透明な粘液を零している。
 興奮して下腹部に熱が篭りじんじんと疼いている。気持よくて爆発しそうになっている。ただこいつとキスしているだけで。・・・ほんっとうに信じらんない!
 やっとの思いで唇を離せば互いの口元はどちらのともわからない唾液でべたべたになっていて、つうっと透明な橋が掛かっていた。光を弾いて煌めきながら途切れたそれさえも惜しくて、再び唇を寄せればしつこいと怒られた。
「いいじゃない、気持ちいいんだから。お前だって良かったでしょ?」
「てめぇのはねちっこいんだよ!いやまぁ、良かった、けど・・・」
「なら、もっと気持ち良くなってよ」
 そう言って軽く唇を合わせると、イギリスは渋々と目を閉じた。唇の感触を愉しむように何度も啄んでから、首筋に顔を埋める。すんと吸い込めば摂取したアルコールの臭いに混ざって、やっぱり紅茶と薔薇の香りがした。男を誘う匂い、酩酊したようにくらくらする。
 立ちのぼる甘い香りに誘われて夢中になって舌を這わせた。イギリスは声を漏らさないように身体を強張らせているけれど、時折我慢できずにひくんと震える。なにこれ可愛い。どこもかしこも敏感で、いいね、お前。ほんと食べちゃいたい。俺のモノに、してしまいたい。
 そう思ったら、我慢できなかった。鎖骨の窪みにねっとりと舌を這わせ、ちゅうっとキツく吸い上げた。
「あ、ばかっ!」
 慌てたイギリスがぼかっと俺の頭を叩く。けどもう遅い、鎖骨には新たなキスマーク。ちゃんと以前のモノと同じ場所。だけど少しだけズレている。これに気付くかどうかはあいつ次第。
「痕つけんじゃねぇ、畜生!」
「いいでしょ、お兄さんだって一つくらいお前にしるしつけたいの。それにこんなにあればバレないって」
 へらりと笑って全身に散らばる痕を揶揄すれば、イギリスは乱暴にチッと舌打ちして顔を背けた。ちょろいな。


 赤い華を辿るように白い肌を撫ぜ回すと、汗ばんだそれはしっとりとしていて吸い付くようで。貧相とはいえ薄く筋肉に覆われた肢体は程よく弾力があり滑らか。何、お前、肌触りも最高じゃないの。
 さっきからずっと触れたくて堪らなかった・・・本当は、目にする度に欲を煽られていた胸の飾りにも、万感の思いでつん、と軽く触れた。
「ひゃん・・・っ」
 イギリスが、啼いた。っていうか、えええええ!?お前そんな声出しちゃうの?そんな可愛い声で啼いちゃうの!?乳首触っただけで?マジで?マジでぇ!?
 もう一度、確かめるようにふにっと押し潰す。イギリスは、ふぁっと鼻に抜ける声でまた啼いた。
「・・・・・・」
 全力で乳首を責めることを決意して、おもむろに身を起こすと、両手でぺったんこの胸を揉みしだいた。そうして小粒の突起を親指と人差指で挟むと、こりこりと捏ねくり回す。
「・・・あ、んっ!・・・ふぁあ・・・っ」
 イギリスが気持ちよさそうに甘い声で喘ぐ。手の甲を口元に充てて声を漏らすまいとしているけれど、それでも堪えきれない程の快感が襲っているのだろう。切なげに歪んだ顔をふるふると振れば、ぱさついた金糸がシーツの波に散った。
 やさしく愛撫しているだけなのにイギリスの其処はいやらしく尖って、背をしならせるともっと弄ってとおねだりするかのように俺の目の前に突き出される。だから俺はわざとキツく摘んでからぴんっと弾いてやった。そうすれば。
「きゃあっ!」
 刹那に女みたいな高い声があがった。なにこれ、めちゃくちゃ愉しい。にんまりと笑みを漏らすと、我に返ったイギリスは羞恥に戦慄き全身を朱に染めあげた。大きな翠の瞳の端には涙さえ浮かぶ。可愛い――もっと、イジメたい。
「あっ・・・ぁ、・・・ひぁっ!」
 美味しそうに熟れたさくらんぼみたいな乳首を唇で挟んでちろちろと舌先で嬲る。もう片方も指先でくりくりと弄る。それだけでイギリスの身体は面白いくらいにびくんびくんと跳ね、あられもない嬌声が立て続けに零れる。
 気付けばイギリスは脚をもじもじと擦り合わせていた。腰が小刻みにびくびく震え、固く閉じた瞳から溢れた涙は丸い頬を伝ってシーツを濡らす。はぁはぁと漏れる吐息が熱くて荒い。
 ・・・ちょっと待て。え、お前もしかして乳首だけでイケちゃうんじゃないの?まさかそこまであいつに開発されちゃってる訳!?エロ過ぎるにも程があるだろ!
「や、も・・・フラン・・・やだ・・・っ」
 身を捩って逃げようとするから反射的に覆い被さって押さえ込んだ。身長は同じでも体格が違う。俺が体重を掛ければそれだけで貧相な身体は逃げられない。イギリスは悔しそうにぼろぼろと涙を溢した。
 限界が近いのか、自らの手をペニスに持って行くから、その手も掴んで頭上で纏めて縫い止める。絶望に歪む顔を見下ろしながら、ゆっくりとキスをした。
 こうなったらイカせてやる。こいつがイクところを見てみたい――。
 再び胸の飾りを口に含み、キャンディーを転がすようにちゅぱちゅぱと舐る。指先で捏ねて摘んで押し潰してまた捏ねて。先端がイイみたいだから摘んで人差し指でぐりぐりしてやれば、喉をのけぞらせてシーツを蹴った。
「ひん・・・っも、やだぁ・・・おかしく、なるぅ・・・っ」
「なっちまえばいいだろ?」
「やだ、無理ぃ・・・あ、あぁん・・・」
 ぶるぶると戦慄くイギリスは頬を紅潮させ、大粒の涙を溢す目元は赤く色付き、ひっきりなしに嬌声が漏れる口元は垂れた涎でテカっている。快楽の波に翻弄されている姿は艶かしくて相当に色っぽい。視覚的暴力と言っていい。正直、ここまでとは思っていなかった。
 けれど、あとひと押しが足りないのだろう。辛そうに顔を歪ませて必死に脚を擦り合わせている。吐く息は荒く嗚咽が混じる。涙に沈む翠の瞳が緩やかに開かれ、懇願の色を纏って俺を見上げた。
「も・・・イキたい・・・頼む、から、触ってぇ・・・」
 音が鼓膜に達すると同時に身体の芯がぞくんと震えた。無意識のうちにイギリスの完全に勃ちあがったペニスに触れる。先走りでべとべとに濡れたそれを乱暴に扱きながら、目の前の腫れ上がった赤い粒をがむしゃらに吸い上げた。
「ひあっ!あ、あぁん、あぁぁぁっ!」
 すぐさま手の中に熱い白濁がびゅくびゅくと吐き出された。何度かに分けて出されたそれを、ぺろりと舐め取りながら身を起こし、ひくんひくんと未だに痙攣を続けているイギリスの顔面に跨る。
「舐めて」
「はぁ・・・はぁ・・・あ、何・・・」
「口でしてって言ってんの。俺まだイッてないから」
 絶頂の余韻から抜け出していない、放心状態のイギリスの口に無理矢理俺のペニスを捩じ込むと、余裕なく腰を動かし始める。混乱しているイギリスは顔を顰めながらも素直に舌を動かし始め、んむぅと苦悶の声を漏らしながら口をすぼめた。喉の奥まで咥え込んで巧みに舌を使いながら、空いた手で陰嚢をやわやわと刺激する。
「あは、いいよ・・・気持ちいい」
 敏感な竿の裏を舐めまわされたら堪んない。ぞくぞくする。キスがうまいってことはフェラもうまいってことだもんな。もっとして欲しい、けど・・・保たない。
 苦しげなイギリスに内心ごめんと謝りながら激しく腰を振りたくる。ベッドの上で逃げることもできない喉奥をゴツゴツ好き勝手に抉って、そのまま低く呻きながら欲望をぶち撒けた。ゆさゆさと振って全部出し切ると、脱力して荒い息を吐いた。
「はぁ・・・やば、お前・・・すごく良かった・・・て、噛むのやめて!!」
 やさしく髪を撫ぜながら熱い口内の余韻に浸っていたら、鋭い犬歯がめり込む感触がして慌てて引き抜いた。見下ろせば物凄い形相でイギリスが睨んでいた。一瞬の後、足を払われあっさりとベッドに沈んだ俺の上にイギリスが跨り、乱暴に口付けられる。どろりと何かが流れ込む――って、これお兄さんの!!やだやだ、自分が出したの飲む趣味はありませんーっ!!
 必死にもがいて上下をひっくり返すと、再びイギリスの口内に白濁を押し込む。舌を絡めて擦り合わせて愛撫し続ける。そうしたら、結局諦めたイギリスがこくんと喉を鳴らして飲み込んだ。・・・めちゃくちゃ不本意って顔してるけど。殺意すら瞳に宿っているけど。
「くそっ・・・まっずいもん飲ませやがって。死ねよてめぇ」
 唇を離すなり呪詛を吐いた。うん、ほんとゴメンナサイ。でも自分のは死んでも飲みたくなかったんです。
「そういうお前はほんとエロいね、まさか乳首でイケるとは思ってなかったよ。いっつもアメリカに弄られてるから?ベーベはママンのおっぱいが大好きってか」
「ママン言うな、絞め殺すぞ。・・・別に、あいつはこんなねちっこい前戯なんかしねぇよ、俺がヨがんのなんか見たくねぇんだろ」
「なにそれ、お前の身体最高なのに?ってあいた!いきなり殴んないで!!」
「くだらねぇこと抜かしてんじゃねぇよ、大体せっかくデカくしたのに出しやがって。さっさとまたおっ勃ててこっち挿入れろよ」
 言いながら大きく脚を開いて奥の窄まりにある小さな穴を晒す。自らの手でくぱぁと開かれた其処は、綺麗なピンク色をしていて物欲しそうにヒクヒク蠢いている。乳首であの感度だ、このナカを弄ったらどんな声で啼くのだろう、どんな風に乱れるのだろう。・・・どんなにか、気持ちいいだろう。
 ごきゅっと唾を飲む。出したばかりの下腹部がまた熱く疼く。
 だけど。
 静かに顔を背けると、床に落ちているシーツを乱暴にイギリスに被せた。ぷぁっと悲鳴を上げたイギリスが何すんだと喚く。・・・何すんだじゃないよ、いい加減自重してよ。
「あのなぁ、其処はアメリカのでしょ。俺にくれちゃダメだろ。お兄さん、あいつと穴兄弟とか御免だよ」
 深呼吸を繰り返して篭った熱を逃がす。乱れた髪を掻き上げてじろっとイギリスを睨めば、負けじと睨み返してきた。けど後ろめたさに惑う瞳にいつもの迫力はない。
 ・・・わかってんじゃん。自分がどれだけ莫迦なことをしているか、あいつを――アメリカを、裏切っているか。
「一回イッて気が済んだでしょ、お兄さんもイイ思いさせてもらったし、お礼に愚痴くらい聞くよ。だからさ、教えてよ。なんでこんな真似したのか」
 そう言い置いて、よいせ、と立ち上がるとキッチンに向かい、グラス二つと適当に見繕ったワインのボトルを抱えて寝室に戻った。この面倒くさい隣国の口を割らせるには酒の力を借りるのが一番手っ取り早い。素面のままじゃ泣き言一つ言えないなんて、不器用というか哀れというか。
 とりあえず気晴らしに飲もうじゃないの。でもって溜め込んだ愚痴を吐いてスッキリしたら、また恋人と仲良くやればいい。
 じめじめ鬱陶しいお前の泣き顔なんか見飽きたっつーの。
 ベッドに腰掛けてグラスを強引に押し付けると、鮮やかな手付きで開栓し、なみなみと注いでやる。とぷとぷと揺れる真紅の液体から漂う華やかな香りが鼻孔を擽る。ちんっと軽くグラスを合わせ一気に飲み干すと、イギリスも複雑そうな表情をしながら手の中のグラスを呷った。
 そうして暫く無言で酒を呷り続け、床に転がるボトルを数えるのが面倒になってきた頃。
「あいつにプロポーズされたんだ」
 ようやくイギリスがぼそっと呟いた。こいつが抱えている悩み事。アメリカ絡みの。


 時刻はとっくに日付を跨いでいる。やっと聞き出せたことに安堵しつつ、これはもう明日はスト決行するしかないなとぼんやり思う。即座に上司の怒鳴り声が脳裏に再生されたけど。
 ていうかプロポーズ?ナニソレ、お前らいつの間にそんな仲良くなっちゃってたの?いいじゃんいいじゃん、プロポーズ。あのアメリカのことだから、変に意識してシチュエーションとか台詞に拘った挙句空回っていそうだけど、国の利害の絡まない私的なプロポーズなんて素敵じゃない。
「この間、やけに深刻な顔して来て、服装もいつもだらしない癖に気張ったスーツなんか着込んでて、なんとなく嫌な予感がしたら・・・案の定、指輪贈られた・・・」
「良かったじゃん、あの変なとこで初心な坊やが指輪くれるなんて本気の証拠でしょ?ていうか何で嫌な予感なの、そこ喜ぶとこでしょ!」
「普通のカップルならな」
「へ?」
「あいつとは恋人とかそんな甘ったるい関係じゃねぇからさ、指輪とか・・・困る」
「・・・・・・なにそれ」
 顔色悪く項垂れるイギリスを、俺は呆然と見る他なかった。
 だって、意味がわからない。アメリカはこいつと付き合うことになったって言ったんだ。俺に対する牽制もあったのだろうけど、念願叶って誰かに告げずにいられなかったのだろう。本当は全世界に発信したいくらい嬉しかったに違いない。・・・幸せそうに笑ってたんだ。
 それからというもの週末は二人きりで過ごし、仕事で一緒になろうものなら部屋を共にして、俺の目の前でキスまでやらかすくらいの熱愛ぶりを見せつけてくれた。
 それなのに――恋人じゃない?ナニソレ。お兄さん、お前が言ってる意味がこれっぽっちもわかんないよ。
「だって、お前ら愛し合ってんじゃん?」
「違う、あいつは・・・俺を好きだと、思い込もうとしてるだけだ」
「・・・何言っちゃってんの、お前」
 目眩がした。思わず頭を抱えた。失望と怒りが綯い交ぜになって胸を掻き乱す。そう、俺は怒っていた。あまりのことに腸が煮えくり返る程に。
 毎週アメリカが帰国した後、わざわざ日曜の夜だってのに俺の処に来る辺り、何かあるとわかってはいたけれど。僅かに見せたこいつの揺らぐ顔に嫌な予感もしてたけど。セックスしようなんて、どうかしてると思ったけれど!
 二人の想いが通じ合ってない、なんて、そんな莫迦な。じゃあアメリカは?あいつの想いなんか何百年と傍で見てきたんだ。青臭いガキの拙いアピールばかりだったけれど、本物の恋だって誰もが知っている。――そう、こいつ以外は、皆!
 ねぇ、ほんとに何言ってんのお前、なんでそうなの。ネガティブにも程があるよ、最低だよ。そんな訳ないじゃん、あいつの瞳見たらわかるだろ、お前のこと本気で愛しちゃってんだよ。この俺が応援しちまうくらいにさ。
 お前だって、アメリカのこと、好きなくせに。どうして。
「なんで、違うって思うの」
「金で始まった関係だからさ」
「・・・なにそれ」
 落胆が激しすぎて立ち直れない。弱々しく尋ねればイギリスは事の次第を説明した。
 始まりは金融危機の時、米国の支援を取り付ける条件だったのだと。支援の見返りとして身体を要求され、本来なら受け入れ難い申し出だけど、欧州が沈むのに釣られて共通通貨を導入していない英国も危機に瀕していた。だから、アメリカの条件を飲むしかなかった――。
「あのバカ・・・」
 溜息しか出ない。此処まで面倒くさいことになっているとは思わなかった。
 元来アメリカは正義感が強くて曲がったことが大嫌いな奴だ。国体の立場では国益の為に策を弄することを厭わないけれど、それでも最低限のルールから逸脱しようとは思わない。融通が効かない性格は時に強引に解決を図り、それがまた争いを呼ぶこともあるけれど、ともかく真っ直ぐな心根は好ましいものだった。
 それなのに、金と引き換えにセックスを要求するなんて、まったくもってアメリカらしくない。それだけ長年の片思いを抉らせていたってことか。この鈍感すぎるフラグクラッシャーが相手だものな、気の毒だとは思うよ。けど、早まったっていいことなんかないんだ。案の定このネガティブ眉毛はアメリカの気持ちを誤解している。
 なんでそうなるんだ、俺の目から見たら簡単なことなのに。アメリカはこいつが好きで、こいつだってアメリカのことが好きだ。それは間違いないんだ。
なんやかんやと構い倒して一方的に愛情を押し付けるイギリスに、鬱陶しい家族ごっこは御免だと振り払うアメリカを思い出して嘆息する。こいつの愛の示し方が下手くそ過ぎるのと、アメリカのガキっぽい反抗心が両片思い二人の擦れ違いの原因だった。でもあの頃の方が今のヤってるだけの関係より遥かにマシだろう。
 ようやく結ばれたと思ったらまだ擦れ違っているなんて、お前ら本当に結ばれる気あんのかと真剣に問い詰めたい。


「あいつはたぶん・・・俺の想いに気付いたんだ」
「・・・あん?」
「俺があいつのこと好きだって・・・だから、俺の想いに引き摺られて血迷っちまったんだ」
「はぁ?」
 呆れ果ててどうしたものかと、遠い目でワインをちびちび飲みながら考えていたら、イギリスがまた訳の分からないことを抜かした。本日何度目でしょうね、言ってる意味わかりませーん。
「俺が可笑しな目で見るもんだから、あいつも興味湧いたんだろ。同情したのかもしれねぇな。それで気紛れに融資の条件ってことにして俺なんかを抱いて――その癖ヒーロー志向が強いから、遊びでした、なんて切り捨てることもできなくて・・・」
「待て待て待て、なんだその解釈は!」
 ぶはっと思わず口に含んでいたワインを噴き出してしまった。真紅の液体がシーツに飛び散って、汚ねぇな、て睨まれたけど、お前のせいだからね!?何お馬鹿なこと言っちゃってんの!!こいつもうやだ!!
 頭を抱える俺を半眼で睨みつつ、イギリスは続ける。いやあの、もうお腹いっぱいなんですけど、あんまりもう聞きたくないっつーか、イイ思いさせてもらった礼はここ迄で打ち切りたいっつーか・・・あ、無視ですか。
「一回だけだと思ったんだ。こんな貧相で骨ばった身体、抱いても気持ちいい訳ねぇ。だから融資さえ引き出せるなら一回ヤッて全部忘れちまおうって思ったんだ。なのにあいつ、うまく割り切れねぇみたいでさ、俺に恋してるって自分を偽るんだ。俺のことが好きだって嘘吐くんだ。プロポーズまでして・・・ばかだよな、そんなことしてくれなくていいのに」
「・・・・・・」
 ふっと儚げに微笑むその横っ面、張り倒していいですか。むしろ釘バットでそのスッカラカンの頭ボコっていいですか。許される気がする、今なら!
「な・ん・で、そうなんのぉぉぉっ!!!」
「い、いひゃっ!にゃひふう・・・」
 とりあえずほっぺた抓ってやりました!こいつを殴るのはアメリカだけの正当な権利だろうから。つうか良くまぁ伸びるほっぺだこと!!えぇい、ぶにぶにぶにー!
「ひゃにゃへぇぇぇっ!!」
「こんのバカタレぇぇぇっ!!あいつの想い、なんでちゃんとわかってあげないの!!違うでしょ、アメリカはずっとお前のことが好きなんだよ!本物の恋しちゃってんだよ!!」
「そんな訳、ねぇだろ!!」
 腹に蹴りがぶち込まれて引き離される。がしゃんっ!苛立ったイギリスが手の中のグラスを床に叩きつけた。わなわなと全身を震わせ、物凄い眼光で俺を睨んで拒絶する。正しくは、俺の言葉を。
「そんな訳、ない。こんな汚れた想い、抱えてるのは俺だけで十分だっ」
 あ。泣きそう。
 思った時にはぼろりと大粒の涙が零れ落ち、イギリスは両手で顔を覆った。そうして溢れる激情のままに慟哭する。違う違う、と譫言のように繰り返して。そんな訳ないと自分に言い聞かせて。
 俺はただ、呆然とするばかりだ。だけど思考は一気に回転し、ようやくこいつの考えていることがわかった気がした。二重三重の嘘で覆い隠した、本当の気持ち。


「あいつが俺を好きだなんて、嘘だ・・・っ」
 そう、思いたいんだな。お前は気付いたんだ、アメリカの告白が本物だってことに。本気で愛されている、そういう対象として見られているって、知ってしまった。だからこそ、受け容れられないのか。
 この禁忌とされる関係を。
「偶々男に興味を持っただけなんだ。長く生きてりゃそんなこともある。都合が良かったから俺で済ませたんだ。それで――」
「・・・三百年も片思いしてきて、偶々な訳ねぇだろ」
 はぁと深い溜息を漏らしながら告げれば、びくりと肩を震わせて涙に濡れた顔を上げた。
「三、百年・・・?」
「そうだよ、あいつがお前に恋してきた時間。独立前からずっとだ。ずっと、お前に恋して苦しんで、それでも諦められずに想い続けてきたんだ。・・・遊びなんかじゃないよ、イギリス。あいつは本気でお前を愛してる」
「・・・・・・」
 追い打ちをかけるようだけど教えてやった。
 だって俺は傍でずっとアメリカのことも見てきたんだ。たったひとつの恋を、生まれてからずっと大切に抱き続けてきたあの子の願いは叶って欲しいから。叶うべきだと思うから。だから、少しくらい絆されろよ、この堅物。アメリカの純情を思い知ればいい。
 呆然と座り込んだイギリスは、しばらく理解できないという顔で俺を見ていた。不意に、こてんと首を傾げる。表情が消え、人形のような虚ろな瞳をぱちぱちと瞬かせる。薄い唇が、それじゃ、と小さく呟く。
「それじゃ・・・いつ終わるんだ?遊びじゃないなら、俺はいつまで我慢してればいいんだ?いつまであいつに抱かれて・・・あいつを汚し続ければいいんだ?」
 言うなり蒼白になって声なき悲鳴を上げた。顔を歪ませて絶望に身を震わす。
 ――逆効果だったか。内心臍を噛みつつ宥めようと思わず手を伸ばしたら、狂気を孕んだ鋭い眼光に射抜かれ、唐突に押し倒された。勢いのまま俺の身体に乗り上げたイギリスの細い指が、俺の首を締める。
「ぐっ・・・ちょ、苦し・・・っ」
「遊びなら、すぐに飽きるだろうって思ったんだ。だから我慢してたんだ!けど三百年てなんだよ、おかしいだろ、なんで俺なんだよ・・・こんな不毛な恋を、なんであいつもしてんだよ・・・!」
 涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔して激昂する。苦しい胸中を吐露する。苛立ちをぶつけるように俺を殴る・・・ってそれ完璧に八つ当たりじゃん!!痛い、痛いから止めて、落ち着いて!
 やっとの思いで振るわれる拳を掴んで制止すると、イギリスは感極まったのか、ふるりと震え、俺の肩口に顔を埋めてひぃんと泣いた。殴られたあちこちが痛むけれど、とりあえず小刻みに震えるそのボサボサの頭をぽんぽんと撫でる。
 うんうん、そっか、お兄さんやっとわかった。お前は割り切っていた訳じゃないんだね。乗り越えていなかった。アメリカに恋してるけど、恋仲になりたい訳じゃなかったんだ。
 自分が育てた愛子に恋をした、それはイギリスにとって許されざる汚れた想い。罪深く不道徳で人倫に悖る禁忌の領域。叶うことのない不毛な恋。・・・そうかもね、血の繋がりある身体が交わるなんて、近すぎて穢らわしい。
 だから想いを通わせるつもりはなかったんだ。芽生えた感情は胸の奥深くに仕舞いこんで、アメリカに告げるつもりもない。ただ傍にいられればそれで幸せだったのだろう。
 だけどイギリスが超えられなかった壁を、アメリカはいともたやすく超えてしまった。元兄の身体を求め、繋げてしまった。おぞましい近親相姦。イギリスの浅慮で一度きりと思われた秘密の夜は長きに渡り、結局互いの精神を蝕み続ける。
 抜け出すことのできない泥の沼の中、二人で溺れている訳だ。息もできず、今ももがいている。
「俺は――・・・あいつのこと好きだって自覚してからも、セックスしたいなんて思ったこと一度もないんだ。傍にいられたら十分だった。憧れに近かった。そういう対象じゃないって・・・無意識にセーブしてた。けど、あいつは俺を・・・そういう目で見ていて・・・」
 今も昔も一方的で利己的なイギリスの愛情。与えるだけで満足、愛を返されるなんて思いもしない。だけどアメリカは真逆で、愛されるだけじゃ満足できない、自らの愛を相手に注ぎたいんだ。愛し合いたいんだ。
「俺のせいだ。俺が、もっとちゃんとあいつの考えてること理解していれば、ちゃんと拒んでいれば、こんなことにならなかった・・・。こんな風にあいつを貶めて、穢すようなこと、一度だってヤッちゃいけなかったのに」
「支援の条件に言い出したのはあっちでしょ。仕方ないよ」
「けどっ・・・だからって、あいつを汚していい理由にはならない。俺のせいであいつ、笑わなくなっちまった・・・あんなに輝いてたのに、天使みたいだったのに!」
 力説するイギリスに俺は肩を竦めるしかない。子供の時ならいざ知らず、デカくなったアメリカを天使みたいとか言えるのはお前くらいだよ。ほんといつまで経っても保護者面が抜け出せないね。だから余計に今の関係が辛いんだ。


 イギリスがアメリカを嫌いなら此処まで傷つかなかったのだろう。好きな相手を貶める行為に加担している現実が、こいつを酷く悩ませている。
「・・・いつ、気付いたの?あいつの気持ち。お前にっぶいからアメリカのわかりやすいアプローチすら気付いてなかったのに」
「関係持って半年くらいかな・・・受け身のセックスに身体が馴染んであんまり苦しくなくなって、初めて最中にあいつの顔見上げたらさ、すげぇ瞳で俺のこと見てたんだ。俺のこと好きだって訴えるような瞳でさ。あんな瞳向けられたら・・・誰だって気付くだろ」
 そうだな、誰だって気付くよな、あんなハンパない熱視線送り続けていたら。アメリカは、数百年単位でお前のことそーゆー瞳で見ていたんだけどな、おかしいな、気付いたのつい最近かよ。
「でさ、とうとう指輪まで持って来てプロポーズまで始めるから・・・つい言っちまったんだ。俺、付き合ってる奴がいるって」
 はい、爆弾キター。
「・・・へーえ。初耳。ちなみにその付き合ってる奴って俺の知ってる奴?」
「あぁ、知ってるな。お前だから。俺がお前と付き合ってるって言ったらアメリカの奴ビビってた」
 ふらっと意識が遠のいた。いっそこのまま失神してしまいたい。けど。
「お前なぁ・・・嘘でしょ!?くそっこのお馬鹿!!なんつー嘘吐いてくれてんの!ばかばかばかっ!!」
「仕方ねぇだろ!?巻き込んでとばっちり喰らわしても構わねぇくらいどうでも良くって、俺なんかと付き合えるような見境のねぇ変態ってお前くらいしか浮かばなかったんだよ!」
「せめてそこで俺のこと好きだからとか、可愛い言い訳言ってみろよくそ眉毛!!」
「んな訳ねぇだろ気色悪ぃ!!」
「俺だって虫唾が走るっつーの!!やだやだやだ、お兄さん巻き込まれたくない!まだ死にたくない――っ!!」
「うるっせぇな!とにかくそういう訳だから!さっさとヤろうぜ」
 言うなりイギリスは俺のペニスを弄り始める。あれなにこのデジャブ。――冗談じゃないよ!
「はああっ!?なんでそこに繋がんの!?お兄さんもうこれっぽっちもお前の頭の中理解出来ない!」
「つべこべ抜かしてんじゃねぇ!いいか、俺とお前は非常に不本意だが付き合ってることになっている。俺は口にするのもおぞましいがてめぇに惚れてるらしい。けどアメリカが信じてくんねぇんだよ、俺からてめぇの匂いがしないってな。だからセック」
「しない!しません!もう何も聞きたくないっ!はいはいお開き!さっさとお前は寝なさい!」
 強引に引剥がすとベッドの上に転がし、乱暴にシーツを掛けてやる。ついでに一発腹に蹴りをぶち込むと、ぐふっと悶えてやっとおとなしくなった。
 はぁはぁと荒い息を吐きながら髪を掻き上げてシーツお化けを見下ろす。
「・・・あのさ、一つだけ言わせて」
「んだよ」
 シーツの中からくぐもった声が聞こえる。もう幾らでも抜け出せるはずなのにシーツを被ったままであることに、ふっと笑みが漏れた。つくづく面倒くさい奴だ。
 少しだけ身体を傾けると、殊更にやさしい口調で言い聞かせるように囁く。
「倫理とか道徳って、それももちろん尊ばなきゃならないものだと思うけど、それでもお兄さんは、やっぱり愛を大切にしたいよ」
「・・・・・・」
「だから、おまじないしてあげる。どうしても辛くなったら、思い出して」
 そうしてシーツ越しに二言三言、耳打ちした。
 イギリスが居心地悪そうにもぞもぞしながら、うぜぇとごちるのに微笑んで。俺は部屋の明かりを消して客間に向かった。


  ×××


 はぁ、とかじかんだ手に息を吐いて、温まるように擦り合わせる。古びた屋敷のエントランスに座り込み、家主の帰宅を待ち続けて・・・いつの間にか眠ってしまったのだろう。ぼんやりと辺りを見回せば闇の中に微かな光が差していた。
 お腹がぐきゅるるると盛大に空腹を訴えたので、ポケットに入っていたチョコレートを少しだけ齧る。そうしてしらじらと夜が明けていく様を眺めていたら、コツコツと石畳を踏みゆく規則正しい靴音が耳に届いた。
 重い鉄扉を押し開いてゆっくりとした足取りでアプローチを歩んできたその人は、俺の姿に気がつくとピタリと足を止め、大きな瞳を瞠らせる。薄い唇を僅かに動かして、声もなく呟いたのは――どうして。俺はそれに笑みで応える。やさしく微笑んだつもりだけど・・・彼は、怯えたようにびくりと震えた。
「お帰り――イギリス」
「お前・・・なんで、此処に」
「忘れ物したんだ。だけど君がいなくて、すぐに戻ると思って待っていたんだけど・・・まさかお泊りだったとはね」
 手の中のチョコレートの欠片をぽんっと口の中に放って、待ちくたびれたよ、と肩を竦めてみせたら、彼はきゅっと唇を噛んで静かに瞳を伏せた。
「何処に行っていたんだい?・・・なんて、聞くのも野暮だよね」
「わかってんなら、聞くな」
 交際しているというフランスを暗に指せば、イギリスは否定することなく忌々しげにごちた。再び歩を進めて俺の目の前を通り過ぎ、ドアの前に立つ。彼ががちゃがちゃと手にした鍵を廻して解錠するのを何とはなしに眺めて――そうして、ドアが開かれたと同時に立ち上がると、俺は彼を乱暴に押し込んですぐ傍の壁に縫い留めた。
「・・・ぅぐっ」
 後頭部を強かにぶつけたイギリスは衝撃に眉を顰めて低く呻いた。構わずに俺は彼の唇を自分のそれで塞ぐ。瞠目する翠を睨めつけながら素早く彼のコートとカーディガンを剥ぎ取り、スラックスから引き出したシャツの内側へと手を滑り込ませる。温かな身体に冷たい掌を押し付ければ、細い肢体がひくんと震えた。
「んん・・・、やっ」
 腕を突っぱねて僅かに唇が離れた隙にイギリスは顔を背ける。明らかな拒絶に舌打ちして、顎を捉えると再び強引に口付けた。舌先で促しても頑なに唇を引き結ぶイギリスに苛立ち、素早く彼の胸の飾りをシャツ越しに摘んでやると、敏感な彼は小さく跳ねて、んぅと甘い息を漏らす。その一瞬の隙を突いて薄い唇を割り開くと、すかさず舌を差し入れた。
「ふっ・・・ん、ん・・・っ」
 温かな粘膜にねっとりと擦り付けると少しだけ逃げる素振りをみせたけれど、すぐに諦めたか、自らも差し出して絡める。同時に瞳を伏せた。薔薇と紅茶の香りがする甘やかな口内を堪能しながらも、綺麗な翠が薄い皮膚に隠れたことで、胸の奥にどろりと黒い感情が沸き起こった。
 瞳を開いて俺を見る時は拒む癖に、こうして受け入れる時は瞳を閉ざす。――彼は今、愛するフランスの姿でも思い浮かべているのか。そうして受け入れ難い俺とのキスに耐えているのか。
 悔しい。悔しい悔しい悔しい――。
 激情のまま彼のシャツを左右に引き裂くと、鎖骨の辺りに見知らぬ痕が見えた。
「――なに、これ」
 親指で潰すように其処を押せば、イギリスは痛みに顔を歪ませながらも訝しげに俺を見返し、そうして何かに思い至ったのか、唇を噛んで俯いた。
「フランスとの情事の痕まで付けて帰るなんてね・・・随分お盛んじゃないか」
「これは・・・」
 無理矢理付けられた、とでも言い訳するかと思えば、イギリスは黙り込んでしまった。視線を床に彷徨わせ、ただ俺の反応を伺っている。
 ・・・もしかして嫉妬して欲しいのかい?そんなの、とっくにしているんだぞ。いつだって君達の関係に嫉妬しているさ!そして嫉妬に狂った俺が君に何をするのか――わかっているだろうに。こんなモノを彼に許すなんて、君は莫迦か。それとも酷くされたいの?被虐趣味があるとは知らなかったな。
 だとしたら、君の企みは成功さ。お望みの侭に・・・ひどくしてあげるよ。


 怒りに任せてベルトに手を掛け、性急に引き抜く。驚いて俺の姿を映す翠に少しだけ気を良くして、スラックスも床に落としてやれば、彼はまた手をばたつかせて抵抗を始めた。
「やっ・・・アメリカ、待っ・・・」
「待てないよ、一晩中君のことばかり考えていたんだ。これ以上一分だって待てない!」
「待てって!俺はこれから仕事・・・」
「そんなのキャンセルだ!君の今日の仕事は米国のご機嫌取りさ!」
「おまっ・・・ふざけっ、つうかお前だって仕事だろ!?さっさと帰れ!」
「頭痛いから休むってちゃんと連絡したぞ!実際すこぶる頭が痛いよ!君のせいでね!」
 怒鳴りつけながら彼の下着の中に手を差し入れ、肉付きの悪い尻を鷲掴みにして揉みしだく。女みたいにやわらかくはないけれど、俺の動きに合わせて形を変えるのは面白い。そして、彼に身体を開く準備をしているのだとわからせる。
 蒼白になったイギリスは必死な顔で俺の胸を叩いて抵抗する。腕の中から逃れようともがく。けれど構わずに奥の窄まりへ指先を捩じ込めば、彼は大袈裟な程に身を震わせた。
「うあっ・・・痛・・・っ!」
「嘘つき、痛くないだろう?どうせさっきまでフランスのモノを咥え込んでいたんだろう!ほら、ゆるゆるじゃないかっ」
「痛いっ・・・いた・・・や、アメリカぁ・・・っ」
「ははっ、もう二本挿入ったぞ。この淫乱、ビッチめ!」
 無理矢理抉じ開けて侵入を果たした指は、潤滑剤の助けがない為になかなか先へ進めない。アヌスがぎちぎちに締め付けて追い出そうとするから、悔しくて堪らない。
 後孔の状態から昨夜はフランスと関係を持っていないのかと、頭の片隅では冷静に判断できるのに、激情に翻弄される俺の手は止まらない。彼が欲しい、けどうまくいかない。どうしたらいいのかわからなくてパニックになる。
「ダメ、だ・・・俺は、フランスと・・・」
「個人の私的な感情より契約だよ、イギリス。君は俺のモノだ。裏切りは許さない」
「けどっ、俺は・・・」
「足、もっと開いて!」
 乾いた粘膜を遡るように強引に指を押し込めば、イギリスは引き攣れた悲鳴を上げた。
「ひぐっ・・・や、痛いぃ・・・やめ・・・っ」
「おとなしくしていれば直によくなるさ!・・・あぁ、そうだ。これで少しはマシになるかもね」
 言いながらポケットの中に残っていた丸い粒をころんと掌に転がし、指ごと彼のナカに押し込んだ。すると彼はびくんと跳ねて翠の瞳を目一杯に見開き、ふるふると戦慄く。涙を浮かべて俺にしがみついて、途切れ途切れに尋ねる。
「や、だ・・・お前、なに、これ・・・」
「チョコレートだよ。君のナカ熱いから、すぐに溶けるだろう?」
「おまっ、そんなの・・・やっ・・・ぐりぐり、しないでぇ・・・っ」
「相変わらず変態だね、こんなの挿入れられて感じちゃうなんてさ」
 チョコレートの粒をイギリスのイイトコに擦りつけたら、彼は堪らないと顔を歪ませて甘い吐息を漏らした。
 嫌だ嫌だと拒む癖に、快楽に弱い彼の身体はいやらしく腰をくねらせて俺を誘う。溶けたチョコレートの滑りを借りて、ヌチヌチと粘膜が擦れる音が次第にはしたない水音に変わっていく。窮屈だった其処はいつの間にかぱっくりと開いて、俺の指を三本も美味しそうに飲み込んでいる。
 彼のこの器官はもう男を受け入れる場所になってしまったとしか思えない。そうさせたのは、俺か、フランスか。
 昔から変わらずイギリスの隣に居座る男の顔が浮かんで、嫉妬に胸が灼かれた。
 彼になんか渡さない――あんな、誰にでも愛を語ってセクハラするような、どうしようもない変態なんかに。君達ときたらいつも喧嘩ばかりじゃないか。何百年、世界を巻き込んでいがみ合ってきた。付き合ってるなんて信じられるものか。万が一本当だとしても、どうせフランスが浮気してすぐに別れるんだ。うまくいきっこない。イギリスが幸せになれる筈がない。
 でも、じゃあお前はどうなんだと、頭の片隅で俺自身が冷ややかに尋ねる。お前がしていることはなんだと――。
 イギリスが泣いている。嫌だ、やめてくれと懇願して、哀しそうに目を伏せて。無理矢理性感を高められて、ひどく傷ついている。
 こんなの、愛じゃない。俺がしていることは暴力だ。
 わかってる。だけどごめんね。やめてあげられないんだ。こうして所有のしるしを刻んで、俺のモノだと主張しなければ怖いんだ。君を失うのが、俺は怖いんだ。
 白皙の頬を朱に染め、汗か涙かでしっとりと濡れそぼりながら荒い息を零すイギリスの痴態に、腹の底が熱く疼く。奥歯を噛み締めながらチャックを下ろして下着をずらせば、ぶるんと勢い良くペニスが飛び出した。擦る必要なんてない、イギリスの顔、肢体、匂い、それだけで俺のソレは臨戦態勢だ。
 イギリスのペニスも触っていないにも関わらずビンビンに唆り立っている。後ろだけでこんな風になるなんて、ほんとえっちな身体。
 互いのソレを擦り合わせるように下腹部を押し付ければ、彼はひっと悲鳴を上げて首を横に振った。逃げるように腰を引くものだから、後ろから差し込んでいる俺の指を深く咥えることになって、あんっと嬌声を漏らす。
「や、あ・・・ダメぇ・・・っ」
 ペニスを擦り付けながら三本の指をバラバラに動かして掻き混ぜてやれば、イギリスはくっと喉を逸らした。晒された白い肌に噛み付くとアナルがきゅうと締まる。俺の腕の中で好き放題に弄られて、気持ち良さそうによがっている。
 なんていやらしい姿。可愛い。もっと俺で感じて、俺を感じて。
 荒い吐息を塞ぐようにキスをする。舌を差し入れると官能的に絡められた。彼のキスはうまい。無意識なんだろうけどね、俺を煽りながら自分の性感を高める。ばかじゃないの、あぁ気持ちいい。
 唾液も混ぜて互いにこくんと飲み干す。美味しいジュースを分け合ってるみたい。俺がイギリスの中に入って、イギリスが俺の中に入ってくる。浸透して身体の一部になる。
 でも足りない、もっと欲しい。もっと感じたい。彼の密やかな後孔に俺の楔を埋め込んで、繋がってチョコレートみたいに溶けて、一つになりたい。
「イギリス、こっち」
 言うなり指を引き抜くと、彼の身体をぐいっと引き回し、壁に向かい合う形で押し付ける。細い腰を強い力で掴み高く持ち上げる。
「ひゃあっ!」
 急に体勢を変えたからイギリスはびっくりしたのか、短く悲鳴を上げた。
 見下ろすとさっきまで指を咥え込んでいたアヌスが、ヒクヒクと物欲しそうに蠢いている。チョコレートに塗れてべたべたに汚れていて、だけど閉じきらない丸い輪の奥は、相変わらず綺麗なピンク色。
 俺だけじゃなくてフランスのも受け入れてる癖に、いつまでも可愛い色しているなんて、詐欺だ。いっそ俺の色に染まってしまえばいいのに。もっと赤く熟れた林檎みたいな色に。他の男を寄せ付けないように。
 そうして君は俺のモノだと証明してやりたい。


「挿れるよ」
 低い声で恫喝するかのように宣告すれば、綺麗に肩甲骨の浮き出た背中がびくりと震えた。
「っ、・・・やめ、」
 制止の声を遮るように彼のいじらしいアヌスに俺のペニスを充てがう。イギリスはひっと身を竦ませて息を呑んだ。そう、俺を拒む言葉なんていらない。それより俺が欲しいって言って。愛してるって、俺を求めて。
 触れているだけで其処はじんわりと熱を交換して蕩ける。アヌスが奥へ誘うようにひくついてる。早く頂戴と言わんばかりに腰が揺れて――もう、我慢できなかった。
「あっ・・・い、やぁあっ!!」
 ずぷっと先端を埋め込めば、イギリスは劈くような悲鳴を上げた。
 壁に爪を立てて咽び泣く彼を見下ろしながら、ゆっくりと、殊更にゆっくりと俺の肉棒を彼のナカへと沈めていく。
 ねぇイギリス、俺が挿入っていくのがわかるかい?君のアナルが今、俺の形に広がっているんだぞ。熱を交換しながら君のやわらかな肉襞が俺に絡んでくるんだぞ。俺達は今、繋がっているんだ。
 肉と肉が触れ合い、互いの脈動を直に味わう凄絶な感覚に、ぶるりと身震いする。つうっと背を汗が伝った。昏い悦びに浸り、劣情は否応なしに増して快楽を求める。意思の力を総動員して少しだけ引き抜くと、勢いをつけて、ばちんっ!と奥深くまで貫いた。
「ひぅ・・・っあ、あぁぁっ!」
 絶叫して身悶え、逃れようとする身体を後ろから羽交い絞めにして拘束する。やだやだと首を振って抵抗するから、彼のイイトコを狙って穿ち続ける。先走りでべとべとになっているペニスも扱いてあげる。理性さえ壊してしまえば彼は俺を求めてくれるから。
 激しく腰を振って揺さぶれば、悲鳴に甘い声が混じり、次第に嬌声に変わっていった。
「イギリス、イギリスっ!」
「あっ、あぁんっ!うあっ、」
「愛してるって、言って!俺を、愛してるって!」
「あ、ふぁ、あ・・・んっ!」
「言ってよ!」
「ひあっ、あ―――っ!!」
 ズンッと奥深くを突いて愛の言葉を促せば、彼は甲高い声で啼きながら吐精した。壁や床にぱたぱたと散った白濁を見下ろしながら、ずるずると崩れ落ちる身体を指が食い込む程に掴んで、尚も乱暴に揺さぶる。
「ねぇ、言いなよ、君が愛しているのは、誰?」
「あ、あ、アメリカぁ・・・も、やめ・・・」
 イッたばかりの身体には俺の律動から生まれる悦楽がよすぎて辛いのだろう。背をしならせて息も絶え絶えに、びくびくと痙攣し続ける。苦しげに眉を寄せて、だけど無意識に腰をくねらせて。ナカは俺を絶頂に導く為に熱くうねっている。
 健気で愛おしい俺のイギリス。
「ほら、ちゃんと言って」
「はぁ、んっ、あ・・・あい、して、る」
「誰を」
「お、お前・・・アメリカ、を、・・・愛してる」
 壁に爪を食い込ませてはふはふと喘ぎながら、悩ましげに彼はようやく呟いた。
 ずっと欲しかった言葉、それが鼓膜を震わすことは身体を繋ぐことよりも遥かにイイ。耳にした瞬間、背中をぞくぞくと甘い疼きが走った。ゆるゆると口元に笑みを刷く。
「俺も、君を愛してるよ、イギリス」
 ちゅ、ちゅ、と未だに痙攣を繰り返して跳ねる肩口にキスを落とす。新たな赤い華を散らしていく。俺のモノだって、しるし。
「出すよ、君のナカに・・・全部、受け止めて」
「・・・・・・っ」
 耳元で熱い息を吹きかけながら囁けば、イギリスは長いことイキっぱなしで限界なのだろう。ボロボロと涙を零しながら従順に、こくんと頷いた。彼の了承を得て細い腰を抱え直すと、俺は自分の快楽だけを求めて容赦なく腰を振りたくる。そうして彼の深い処まで犯すと、存分に精を吐き出した。
 脱力して彼の身体を放し壁に凭れ掛かると、イギリスは糸の切れた操り人形のようにぺたんとその場に崩れ落ちた。後孔からトロトロと白濁が漏れ出て床を汚していく。本来なら俺の種を含むそれ。ひっそりと昏い願望が沸き起こる。
 いっそ、孕んでしまえばいいのに。


 息を整えると、立てないというイギリスを抱えて寝室へ向かった。
 朝日を浴びながら行為に没頭して、幾度達したのかわからないくらい身体を繋げた後、意識を失ったイギリスをそっとベッドに横たわらせた。
 愛してる。
 その言葉が欲しくて俺は君を抱く。無理矢理に言わせたとわかっていても、俺の心は歓びに満たされるから。
 ごめんね、今日もいっぱい泣かせちゃった。
 青白い頬は眠りながらも溢れる涙に濡れそぼり、目元は赤くて痛々しい。
 ごめんね、酷いことをして。
 身体中に散らばる赤い華と指の形をした鬱血の痕。酷使されて腫れ上がった哀れな後孔。痛々しい姿を晒して、イギリスは昏々と眠り続ける。
 ごめんね、君を――好きになって。
 君の幸せを願うのに、俺は手放してあげられない。君と彼の恋を祝福してあげられない。契約で縛って意のままに扱って、何処にも行けないように所有のしるしを刻む。
 君がどんなに泣こうとも。
 だから俺は今日も罰を受ける。
 罰を受けるから・・・イギリス、お願いだよ。
 俺を、嫌いにならないで。









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