Alfred




「ですから日本人は未だに外国に対するコンプレックスが根強いので、こうして世界の食べ物を体験することで異文化に興味を持ち、外国の方々と仲良くしてもらえたらと考えたのです」
 日本はにこりと微笑んでそう締めると、俺達をとある店に案内した。


 そこは白を基調にしたこざっぱりとした外観のカフェだった。周囲に緑を配置して、看板の傍に花籠が置いてあるその店は、癒しをコンセプトにしているらしい。俺から見たら鬱陶しいだけだと思うのだけど、日本に言えばそうでしょうね、と投げ遣りに言い返されてしまった。隣を歩くイギリスからも溜息が漏れた。
 まったく君達はごちゃごちゃと草花で飾り立て過ぎるんだよ、俺のとこのシンプルでモダンなカフェを少しは見習えばいいのに。このカフェだって俺に言ってくれればもっとカッコイイ設計にしてあげたのに、どうして日本はイギリスなんかに頼んじゃったのかな?
 可愛らしい花飾りの掛かったオレンジ色の木の扉を開くと、温かみのあるランプに照らされた落ち着いた空間が広がった。ゆったりとしたジャズがBGMに流され、入り口付近の机の上には世界各国の雑貨が並べられ、壁には風景画などが飾ってある。
「皆さんに譲って頂きました品を此処に展示してあるんです。このステッカー、アメリカさんに頂いた物です、ありがとうございました。こちらはイタリア君に頂きましたアンティークブローチ、こちらはフランスさんから頂きましたアロマキャンドル、ほらこれ、イギリスさんが刺繍してくださったハンカチです。そしてこちらが・・・ロシアさんからの、その・・・」
 日本が言い淀みながら指さしたのは、ロシアが何処かで掘り起こして持って帰ったのだろう、水道管だ。
「これ、捨ててもいいんじゃないかい?」
「ダメです、ロシアさんが来られた時にもしなかったら何を言われるか・・・」
 はぁと溜息混じりに水道管をそっと撫ぜ、気を取り直したように奥へと歩を進めた。
 店内はカウンター席とテーブル席からなり、綺麗に拭き清められたテーブルには、それぞれに小さな花を飾ったコップが置かれていた。
「まだオープンまで日があるのに、やけに気合が入ってるね」
「ちょっと俺が見てみたいと言ったばかりに・・・悪かったな、日本」
「いえ、企画段階からお世話になったお二人がせっかく来て下さったのですから、楽しんで頂きたいなと思いまして」
 お料理もご用意してありますよ、と席に着いた俺達に日本が差し出したのはメニュー表だ。日本らしく写真入りでわかりやすい。
「イタリアはパスタとピッツァか・・・まぁそうだよな。アメリカがハンバーガーとチップス・・・他にねぇのかよ」
「うるさいな、ハンバーガーは世界一おいしい食べ物なんだぞ!」
「はい、そうですねー」
「ったく・・・で、うちはビーフシチュー。俺のとこから日本に伝わった料理だもんな」
「そうです、イギリスさんと言えばローストビーフかと考えたのですが、やはり両国に纏わるあの味を提供したいなと思いまして」
 漆黒の双眸が過去を懐かしむようにやわらかな光を湛えて細められる。イギリスも照れ臭そうに、けれどはっきりと嬉しそうに微笑む。俺は二人の関係が面白くなくてムスッとしたままメニュー表に目を落とした。未だにあの20年ちょっとの同盟関係を持ち出されるとは。これだから懐古趣味のおっさん達は困るんだ。
「じゃあハンバーガー60個持って来てくれよ!今すぐにね!お腹すいたんだぞ!」
「60個!?お前一人でそんなに食う気かよ!」
「失礼だな、いくら俺でもそんなに食べないよ。君と半分こなんだぞ」
 言うなりイギリスの手からメニュー表をひったくると日本の眼前に突きつける。日本は困惑げに受け取りながら、ちらりと横目でイギリスの様子を窺った。
「勝手に俺の注文を決めんじゃねぇ!俺はビーフ・・・」
「俺もイギリスもハンバーガー、だぞ。日本、わかったね?」
 イギリスの声を遮るように注文の確認をすれば、日本は嘆息しながらゆるゆると首を横に振った。
「・・・ええとすみません60個は予想外でした、20個で勘弁してください。イギリスさん、ビーフシチューはまた今度に」
「・・・・・・っ!!くっそ、ば―――か!!!」
 完全に腹を立てたイギリスは、紳士の仮面をかなぐり捨ててスラングを叫んだ。まったくいつも貧相な食生活送ってるからカルシウム不足なんだぞ。栄養バランスパーフェクトなハンバーガーでも食べて少しは落ち着けばいいよ。


「食後のデザートです。メニューからお二人にちなんだプレートをご用意しました」
 日本は俺とイギリスの前にスイーツが乗ったプレートを置いて説明した。
 イギリスの前にはジャムとクロテッドクリームが添えられたスコーン。もちろん普段イギリスが作る暗黒物質じゃない。こんがりきつね色に焼けて見るからに美味しそうだ。そして俺の前に置かれたのはたっぷりのアイスが添えられたパイ。
「アメリカさんはチェリーパイのアイスクリーム添えです」
「・・・・・・え?」
 突然の爆弾発言に俺もイギリスもプレートに落としていた視線をがばっと振り仰いで、日本の顔を凝視した。俺達に射抜くように見つめられた日本は僅かにたじろいで、どうかしましたか?と口の中で呟く。どうもこうもあるよ、一体どういうつもりだい?
 チェリーパイ。確かにアメリカ人はパイが好きだ。甘いフルーツパイは大好物だ。けど、一般的なのはアップルパイやラズベリーパイ。チェリーパイはそんなに食べられていない。・・・なのに、どうしてわざわざこれを「アメリカン」と銘打ってメニューに入れたのか。
 日本は俺にちなんだプレートと言った。それって、まさか、俺が・・・。
「なぁ日本、ちょっと確認したいのだが・・・この・・・パイが、その・・・アメリカなのか?」
「そうですよ」
「に、に、に、日本!!!ひどいんだぞ――っ!!君、俺に何か恨みでもあるのかい!?最近はそんなに無茶なお願いなんてしてないんだぞ!?」
 はっきりきっぱり断定した日本に、思わず席を立って胸倉を掴むとゆさゆさ揺さぶりながら詰問する。日本の顔がはっきり見えないのは、たぶん俺の視界が涙で滲んでいるからだ。決して日本の頭が高速回転してるからじゃない。
「え、うわ、ちょ、アメ、さ、何・・・!?」
「お、おい・・・アメリカ、止めろ!日本が白目剥いてる!」
「ひどい・・・っひどいんだぞぉぉぉっ!!!」
 ぴりりりりり。
 俺が高ぶった感情のままに泣き叫ぶと、同時に電子音が鳴り響いた。その唐突な音に全員びくりと肩を揺らす。
「・・・あ、私の携帯のようですね。ちょっと失礼します」
 日本は着信を知らせる携帯を握り締めると、ほっとした表情で俺の手をやんわりと外し、キッチンの奥へと姿を消した。残された俺とイギリスは気まずい空気に視線を合わせることなく、席につく。
「じゃあ、まぁ・・・食うか」
「そうだね」
 イギリスはちらりとプレートに乗ったチェリーパイから俺の身体の中心へと視線を移し、ぽっと頬を赤らめると深く俯いてスコーンに齧り付いた。今何を考えたのか手に取るようにわかるんだぞ。くたばれイギリス。
 とは言え俺もチェリーが彷彿とさせる言葉が頭の中をぐるぐると巡っていて、しかもそれに伴う欲望の矛先が目の前で色っぽく頬を染めているので落ち着かない。主に下半身が。
 色鮮やかでキラキラと光を放つ深紅のチェリーは美味しそうなのだけど、とてもじゃないけど口にする気分じゃない。今食べたいのは目の前の薄いピンク色の唇だ。貪るように深く口づけて舌を絡ませたらどんなにか美味しいだろう?
 想像だけで身体の中心の熱は更に猛り、思わずごくんと喉を鳴らしてしまった。誤魔化すように冷たいアイスをスプーンで掬って口に運ぶ。甘い。けれどきっと彼の口の中の方が蕩けるように甘いに違いない。苦いものだと噂のアレだって、彼の身体から放たれたものならやはり甘いと思うし。彼の後ろのお口は何物にも代えがたい甘い果肉なのだろう。ああ欲しいな、欲しい。食べちゃいたい。
 際どい妄想を本人を前にしながらアイスを食べる。チェリーパイは・・・イギリスに食べてもらいたいな。俺のチェリーも食べて欲しい。彼の為に大切にとってあるんだから。彼に捧げる為に。
 愛しいイギリス、愛してる。ずっとずっと心の底から君が欲しいんだ。君に俺のチェリーをあげたいんだ。
 ふと思いついて、つぷっとチェリーパイのフィリングの丸い粒をフォークで刺すと、イギリスの口の前に差し出す。彼はきょとんとそれを見返して首を傾げた。
「ね、食べてよ」
「・・・なんで」
「美味しいから。食べて」
 イギリスは躊躇いがちに何度も俺の顔とフォークに刺さったチェリーを交互に見遣ってから、ようやく慎ましやかな小さな口を開いた。ちらりと赤い舌が見えただけで、俺の全身は興奮でびりびりと震える。
 ぱくん。イギリスがチェリーを食べた。赤い果実を舌の上で転がしている。美味しそうに目を細めてその味を堪能している。・・・何そのエロい顔!途端に俺の中心がジーンズの中で窮屈そうに容積を増した。
 ああもう俺のチェリーも食べてくれよ!舐めてしゃぶってじゅぽじゅぽと頬肉で挟んで上下に擦って舌先で先端を転がして、溢れる俺の味を堪能してくれ!・・・なんて想像したら、やばい。ちょっととんでもない状況になってる。我慢できない、抜きたい。
「ごめん、俺・・・」
「あのさ・・・」
 イギリスのエロい顔見ていたらこのままジーンズの中で達してしまいそうだ。此処はひとまずトイレに駆け込んで処理してしまった方が良いだろう。そう思って彼に断りを入れようとしたら、イギリスが迷うように視線を彷徨わせながらぽつりと漏らした。
「え、何・・・?」
 話をする余裕はないのだけど仕方なく聞き返せば、イギリスはびくりと肩を震わせ、もごもごと口の中で何事かを呟く。
「何だい?はっきり言ってくれないとわかんないんだぞ」
 荒ぶる熱の放出を堰き止められているようで辛い。苛立ちから冷たく言い放つと、慌てたイギリスは口をパクパクと動かし、ぎゅっと目を瞑って表情が見えない程深く俯くと俺に疑問を呈した。
「お前、マジで童貞なのか?」
「――――っ!」
 Shit、軽くイっちゃったんだぞ。


「な、な、な・・・」
 彼の口から童貞なんて言葉が出てくるとは思っていなかった。じんわりと下着が濡れた感触に気持ち悪さを覚えながら、どうしてイギリスがそんなことを聞いてくるのか、その意図を考える。
 エロ大使の彼でも真っ昼間から人の性遍歴を聞くのは恥ずかしいのか、深く俯いたままなのでその表情は窺えない。翠の瞳の色も見えない。けれど頭を垂れたその姿は、失望しているようにも見える。
 ――どうせ俺の性教育に失敗したとか元保護者としての責任を感じているんだろうな。俺が彼に恋していて、彼以外の人とセックスしたくないから童貞を貫いてるなんて、これっぽっちも考えてないのだろう。
「・・・俺が童貞だと、何かまずいのかい?」
 なんだか面白くなくてふいっと顔を背けると、イギリスは慌てたように顔を上げて違うと言った。
「別に悪いことじゃねぇよ、くそ髭みてぇに誰かれ構わず食っちまうよりはチェリーな方がいい!ただ、その・・・お前モテんだろうに、なんでまだ・・・」
「セックスなんて好きな人としなきゃ意味ないだろ?出したいだけなら自慰で十分だよ」
 明るい陽光が燦々と入り込むカフェで話す内容じゃないとは思うのだけど、当の想い人から子供扱いされてテンションは最悪だ。この際俺の劣情全部ぶち撒けてやろうか。驚くだろうな。
「お前、好きな奴いねぇのか?今まで・・・女と付き合ったこと、確かあっただろ?」
「好きな人ならいるよ、ずっとずっとただ一人の人を想ってる。・・・片想いなんだ。忘れようと思って他の人と付き合ったりしてみたけどね、結局ダメだった。その人じゃなきゃ、抱きたくない」
 想いを乗せるように彼の瞳を見つめて素直な心の中を曝け出す。綺麗な翠の双眸、キラキラと光を放つ至高の宝石。ねぇ、俺だけを見てよ。他の人なんて目に入れないで。俺はずっと君だけなんだよ。
 けれど人の好意に鈍感なイギリスは俺の想いなど気付きもせず、ふっと肩を竦めてからかうように笑った。
「・・・なんだ、いんのか。そいつに告らねぇの?お前ならうまくやれんだろ」
「そう思うかい?」
「あぁ」
「相手が君でも?」
「へ?」
「君だよ。君が好きなんだ、抱きたいくらいに」
 視線を絡めて逃げられないようにして、とうとう想いを吐き出した。もう本当に限界だから。今すぐ押し倒してチェリーを捧げたいから、せめて想いを伝えておく。言った。告白した。よしヤろう。
 がたんと椅子を蹴って立つと、あからさまにイギリスは怯えたようにびくりと震えた。大きく見開かれた翠の瞳を真っ直ぐ射抜きながら彼の傍に立ち、その腕を取って強引に立たせる。
「ねぇ、さっきのチェリーみたいに俺のチェリーも食べてよ。君に味見させてあげる」
「・・・へ?え、うわっ!?」
 悲鳴を上げる彼に構わず身体をぐるりと回転させると、隣りの席のテーブルに押し倒した。


「痛っ・・・て、めぇ何・・・っふ、ぅんっ!?」
 彼の上に覆い被さる勢いのままに顔を寄せ、口付ける。初めて知る彼のキスの味はやっぱり甘くてやわらかくて、仄かに紅茶の香りがした。あまりの美味しさに夢中で貪るように吸い続ける。
「ん、ふぁ・・・待っ、んん・・・っ」
 突然のことにフリーズしていたイギリスは、ようやく状況を把握したのか、慌てて俺の肩を押して抵抗を始めた。逃がすもんか、此処まできたらもう止められない。俺のチェリーを食べて欲しい。君の身体を食べちゃいたい。
 閉じようとした唇を割って舌を差し入れると、逃げるように奥に引っ込んだ彼のそれを絡め取ってじゅうっと吸い上げる。イギリスが切なげに眉を寄せるその表情に俺の劣情は益々煽られていく。彼の感じる場所を探るように上顎を舐め、歯列をなぞり舌の裏筋を啄く。
「は・・・んん、ふ・・・」
 二人分の唾液が混ざり合って溢れ、イギリスの頬を伝って落ちた。ようやく唇を離す頃にはお互い息があがってはぁはぁと肩を上下させていた。
「あめりかぁ・・・」
 トロンと蕩けた翠の傍にちゅっとキスを落として、端と気付く。俺の首の後に、彼の腕が回されてる。
「え、あれ・・・イギリ、ス?」
「・・・・・・?」
 未だぼんやりとしているイギリスが可愛らしく微かに首を傾げる。その仕草に俺の心臓はずっきゅんと撃ち抜かれた。なんだかよくわからないけど抵抗は止めたらしい。なら都合がいい、彼の気が変わらないうちにさっさとヤっちゃおう。
 シャツのボタンを半分くらい飛ばしながら外して、隙間から手を差し入れる。ひくりと震える身体を押さえつけるように肌を撫ぜると、イギリスは甘い吐息を漏らした。男のくせにしっとりと滑らかな肌が心地よい。
 指の先に引っ掛かった胸の飾りを無造作に摘むと、ひゃあっと高い声を上げる。男でも乳首って感じるのかな?試すようにむにむにと指の腹で刺激すると、ぎゅっと堪えるように目を瞑ってふるふる震えてる。小動物みたいで可愛い。
 愛らしいピンク色の粒がぷくりと膨れて美味しそう。ぺろっと舐めると、ぎょっとしたイギリスが再び俺を押しのけようと抵抗を始めた。仕方なく両腕をひとつに纏めてテーブルに押しつけてから乳首を口に含む。
「やっ・・・ぁん、やだ、・・・ひっ!?」
 もう片方の手をそっと彼の股間に這わすと、イギリスははっきりと怯えの色を見せた。けれどそれだけじゃなく戸惑いと羞恥も入り交じっていて、その表情が示すように触れたそこは既に熱く固くなっていた。
「君ってば・・・乳首感じてこんなになっちゃったの?」
「ち、違・・・っや、待てばかやめろ・・・っ!」
 邪魔なベルトを外して、スラックスを下着ごと一気に脱がすと足元に落とす。イギリスは足をばたつかせていたけれど、乳首をちゅうちゅう吸いあげたら快感に身を捩らせて、次第に抵抗の力を失くしていった。
「こんなに先っぽ濡れてるじゃないか、脱いでおかないと服が汚れちゃうだろ」
「や、だ・・・触ん、な・・・ひぅっ!・・・あ、あぁぁ・・・」
 彼の半勃ちのペニスを握り込むと、強弱をつけながら上下にごしごしと扱く。腹に付きそうな程勃ち上がった先端にヌチャヌチャと溢れた液を塗り込めれば、イギリスは荒い息と共に堪え切れない嬌声を漏らした。
「ふぁっ・・・あ、も、放せ・・・出、る・・・」
「いいよ、イキなよ・・・君のイクとこ見せて」
「・・・や、だ、見ん、な・・・や、うぁ、あ・・・っ!」
 激しく上下に擦り上げて敏感な場所をぐりっと弄れば、イギリスはびくんと大きく背を反らして呆気無く果てた。ぎゅっと目を瞑って吐精の強い快感にふるふると震えている様は本当に可愛らしい。なんというか嗜虐心を煽る。白い肌が薄桃色に染まっているのも色っぽい。その腹と胸に彼が出した白濁が散っているのも目の毒。あーもうだめだ、ほんとダメ。もう我慢できない。
「挿れるよ」
「・・・・・・あ?」
 ぐったりと脱力して荒い息を吐き出しているイギリスの両膝をよいしょと持ち上げて、ジーンズから取り出した俺のペニスを彼の後孔にぴとっと充てる。イギリスは一瞬フリーズして、次の瞬間これまでにない激しい抵抗を見せた。
「ば、ばかやめろ無理!!」
 俺の身体を力一杯叩く彼に構わず、ぐっと押し込もうとしたら、イギリスは悲鳴をあげて泣き出した。
「痛ぇ!!やめろばか裂ける!!せめて解してからにしろばかぁっ!!!」
「・・・あ、そうか」
 そういえば男同士のセックスはちゃんと解さなきゃいけないって書いてたっけ。でないと裂けて後が辛いって。俺はイギリスのことが好きだから、可哀想なことはしたくないんだぞ。彼の下のお口とようやくキスできたのに残念だけど、ちょっとだけ待っててくれマイサン。


 暴発寸前のペニスを引き戻すとイギリスは安堵の表情を浮かべ、ぼろぼろと涙を零しながら俺を睨みつけてきた。
「・・・・・・っ、これだからチェリーは・・・っ!」
「ばかにしてんのかい?」
「この状況はばかにすんに決まってんだろばかぁっ!!大体なんでいきなりセックスなんだよ!俺の返事聞けよ!!」
「・・・どうせNOだろ?でも俺はチェリーを君に捧げるって決めたんだ。だから一度でいいから受け容れて」
「なんで聞きもしねぇでNOだって決めつけてんだよ!聞けよそこは!」
「うるさいな、黙っててくれよ、ムード台無しじゃないか」
「俺の気持ち知りもしねぇでムードもへったくれもあるかくそったれぇぇぇっ!」
 べちんと思い切り頭を叩かれた。ああもうほんとうるさい、とにかく濡らすもの探さなきゃ。ローションなんて流石に持ち歩いていないから・・・あぁそうだ、チェリーパイがあった。
 さっき食べかけのチェリーパイを鷲掴みにすると、イギリスのうるさい口に放り込む。そこから中のフィリングを掻きだすと、彼の股間に塗りつけた。
「むぐっ・・・ん、ぺっ・・・てめ、何する気・・・」
「解せばいいんだろう?ちゃんと痛くないようにしてあげるから安心して」
「問題はそこじゃねぇよ!!俺が言ってんのは・・・うぁ・・・っ!」
 ずぷっと真っ赤なフィリングを纏った指を一本差し込んでみる。案外簡単に入って拍子抜けした。そのままグチグチと入り口を広げるように動かせば、イギリスは俺を誘ってるのか、ゆらゆらと腰を揺らめかせた。
「あっ・・・ひぁ・・・や、ん・・・っ」
 気持ちよさそうな声をあげてイギリスがヨガってる。あーいいな、早く挿れて繋がりたい。
 何度もフィリングを取っては中に入れて馴染ませる。指も二本、三本と増やしていく。イギリスが下のお口でぐちゃぐちゃとはしたない音を立てながらチェリーを食べている、その淫らな光景と音があまりに暴力的で、俺の理性は完全に吹き飛んだ。
「もう、いいよね・・・挿れるよ?」
「はっ・・・ぁん、も、ばかぁ・・・っ!」
 涙目のイギリスが悪態を吐きながらも頷くのを見て、俺はペニスを再び彼の下のお口に宛てがった。
「俺の、チェリーも、食べて・・・っ」
「ひゃ・・・あぁぁぁぁぁっ!!」
 太い先端が入り口を通るのはきつかったけど、あとは勢いのまま一気に貫いた。ぐち、ぬちゃっと粘度の高いフィリングが纏わりつく。けれどそれ以上に熱くうねるイギリスの内壁が俺を包み込んでくれるのが、すごく気持ちイイ。
 ずっとずっと求めてやまなかった彼とこうして繋がってる。最高に、ハッピーなんだぞ!
「イギリス、ねぇ・・・好きだよ・・・」
 ヒクヒクと声もなく痙攣しているイギリスの頬を撫でて、ちゅっとキスを落とす。彼は辛そうに眉を寄せて涙をぽろぽろ零していたけれど、潤んだ瞳で俺を見上げるとそっと手を伸ばしてきた。後頭部に手がかけられて、促されるようにまたキスをする。何度も繰り返し求め合うように舌を絡めて、両方のお口で繋がる。
「あっ・・・あふ、んぁ・・・あ、ひん・・・」
 彼の熱と匂いにクラクラして、堪らずに腰をずぶずぶと抜き差しすれば、イギリスはあられもない嬌声をあげながらイヤイヤするように首を横に振った。けれど両手は俺の腕に縋りつき、彼の中の柔らかな粘膜は隙間がない程俺のペニスにぴったり吸い付いて離れない。
 本当に素直じゃないんだから。まぁそれでこそイギリスなんだけどね。もっともっと俺を求めて欲しくて激しく腰を振る。中でゴロゴロとチェリーがぶつかって擦れて俺のペニスを刺激する。
「はっ・・・ぁ・・・すご、きもちいい・・・」
「ふぁ、あ・・・やだ、そこ・・・だ、め・・・」
「ここ?ここがダメなのかい?」
「ひぅ・・・や、・・・あっ、あぁんっ!らめぇ・・・っ!!」
 チェリーを潰そうと思いきり擦り上げた瞬間、きゅうっと強い締め付けに襲われ、イギリスが甲高い声をあげてがくがくと戦慄いた。
「・・・・・・え?」
 ぱたぱたと下腹部に熱いものが掛かった。見下ろせば二人の腹が白濁で汚れている。
「君・・・もしかして、後ろだけでイったの?」
 思いがけない状況をうっかり口にしてしまえば、照れ屋の彼は案の定かぁっと全身を赤らめてぶるぶる震え出した。あ、ヤバイと思った時にはもう、ふぇーと泣き出していた。
「ひっ・・・う・・・お、お前が変なの、挿れるからぁ・・・ふぇぇ・・・」
「泣かないでくれよイギリス、気持ち良かったんだろ?」
「ばかばかばかっ!!中に出しやがって・・・信じらんねぇ!」
「仕方ないだろ、君の締め付けすごかったんだ。ね、わかるかい?君の中、チェリーパイとクリームパイでいっぱいなんだぞ」
 未だ彼の中にある俺のペニスを動かすと、クチュクチャと卑猥な水音が漏れる。その音にイギリスは益々赤面して両手で顔を覆った。
「ん・・・や・・・かき混ぜんな・・・ぁん・・・」
「美味しかったかい?俺のチェリー&クリームパイ、君だけの特別メニューなんだぞ」
「も、ほんと、お前ばか・・・」
 にっこりと笑って言えば、イギリスは熱い吐息を漏らしながらがっくりと肩を落とした。その手を取ってキスして、翠の双眸を覗き込みながら愛を囁く。
「イギリス、好きだよ・・・無理矢理してごめん」
 そのまま口付けようと顔を寄せると、茫然と目を見開いていたイギリスは慌てて首を横に振って拒絶した。悔しくて強引に唇を奪えば、くぐもった声で違うと訴える。何が違うかと問えば、ぱんっと思いきり頬を叩かれた。
「・・・だから、聞けよ・・・っ!俺も好きなんだよ・・・!」
「え?」
「俺も、好きだっつってんだよ、ばかぁ・・・っ!」
 ぴしっと思考が固まってしまって動けない俺を見て、ちっと舌打ちしたイギリスは不意に手を伸びして俺の胸倉を掴むと、がっつりと貪るようなキスをした。


 ぴりりりり。
 携帯が着信を知らせる。慌ててジーンズを探って携帯を取り出す。表示を見ると日本からだった。日本、そういえばさっきまで一緒にいたっけ。今、どこにいるんだっけ?
「ハイ、日本・・・君、今どこに・・・?」
 言いながら、思い出した。
「恐れ入りますすみません・・・そろそろそちらに戻っても、よろしいでしょうか・・・」
 さーっと青ざめながらオイルの切れたロボットのような動きで振り返る。イギリスも真っ青な顔をして俺の後ろを凝視した。
 厨房の方から、念仏とやらを唱える声が、聞こえてきた。



おわり





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