USA/UK 「ねぇ、俺のこと好きだよね?」 デスクに向かい合って座るイギリスに、そう聞いてみる。彼はというと、手元の資料からまったく視線を外さずに。 「あぁ好きだぜ」 と、さらりと答える。顔色一つ変えず、こちらを見向きもせずに言われても、真実味がないんだぞ。だから。 「じゃあさ」 椅子から立ち上がって、彼が見るその資料の上にばんっと手を付いて。ずっと胸の中でもやもやしていた事を口にする。 「キスしよう」 「へ?」 流石の彼も驚いて視線を上げて俺を見た。翠の綺麗な双眸。この宝石を見たのは、本日実に二度目だ。この部屋に入って来た時と今。たったそれだけ。後はずっと資料に目を通すばかりでこちらを見てくれなかった。俺はずっとこの日を待ち侘びていたのに。 自国の金融情勢が不安定な為に、おいそれと国を離れる訳にはいかず、かといってイギリスから会いに来てくれることもなく。擦れ違いの日々は三ヶ月に及んだ。会えない辛さは電話でやり過ごしたものの、やっぱり直接会って話したかった。もっと正確に言えばキスして押し倒してイチャイチャしたかった。そんな時にやっとこの仕事で同席することになったんだ。仕事だろうと何だろうと、会えなかった分を取り戻すみたいに濃密な時間を過ごしたいと思って何が悪い。なのに。 彼は眉間に皺を寄せて、至極冷静に言い放つ。 「何馬鹿なこと言ってんだ。真剣にやれよ。重要な案件だぞ、これ」 「わかってる、わかってるけど・・・」 「じゃあ真面目にやれ」 そう言って再び資料に視線を落とすから、堪らずイギリスの横に移動して肩を掴む。途端、ぱしっと払いのけられ、ぎろりと睨まれた。 「アメリカっ仕事中に私情を挟むな!俺はそういうのが一番嫌いだ!」 「君は・・・俺を想って揺れることはないのかい?」 悔し紛れに尋ねると、彼は冷え冷えとした視線を返してきた。 「そんなものは割り切ってる」 途端、かぁっと頭に血が上るのが自分でもわかった。 「そんなもの!?そんなものって俺との関係がかい!?君にとってはその程度のものなのかい!?」 「んだよ、うぜぇな。今は仕事・・・」 「休憩だよ!反対意見は認めないっ!」 言うなり俺は部屋を飛び出した。 「なんだいなんだいイギリスの馬鹿!石頭!偉そうに説教なんかして!」 怒りに任せて壁をげしげし蹴り続けると、ミシミシぱらぱらとヒビが入り穴が開いていく。けどそんなの知ったことじゃない。 「自分だって仕事中にエロ本読むような不謹慎かつ不真面目なことするくせに!キスくらいでなんであそこまで言われなきゃならないんだいっ!?ちょっと唇にチュッてするだけだぞ!?挨拶みたいなものじゃないか!そりゃもちろん」 そう言えば心の声が駄々漏れだった。慌てて口を引き結んで思考を再開する。 ――もちろん、彼が求めて来たら絡ませて。心を込めて愛撫してやって深く深く口づけて、とろっとろに蕩かしてあげるんだ。・・・それなのにあの頑固者ときたら! 再び怒りが沸点に達する。 こうなったらもう俺からはキスもセックスも仕掛けてやらないんだからな!?欲求不満でのたうち回れば良いんだ!お願いします、してくださいってお強請りしなきゃ、してあげないんだぞっ!?こう、上目遣いの瞳を潤ませて火照った身体を擦り寄せて・・・シャツは肌蹴てて胸元がちらりと見えて・・・いや、いっそ裸で。裸、イギリスのはだか・・・。 ヤバい、想像だけで今すぐ襲ってしまいそうだ。いやいや待て待て、さっき俺は自分からは仕掛けないと誓ったんだ。これは彼への復讐なんだぞ!我慢我慢・・・あれ、なんだか俺自身のが辛いかも。でもヒーローは一度決めたことを翻したりしないんだぞ☆俺の全身全霊を込めてこの復讐やり遂げてやる!俺なしじゃやっていけないって、わからせてやるんだっ! 腹に力を溜めてよしっ!と気合いを入れて、自販機のコーラをぐいっと一気に飲み干すと、缶をぐしゃりと潰してごみ箱に投げ込んだ。踵を返して会議室に戻る。 ××× 部屋に戻って来たアメリカをちらりと見て、簡潔に尋ねる。 「頭は冷えたか?」 「まぁね」 言って席に着くなり資料を持ち上げて、ここがどうとかこれはこうした方が良いとか、先程とは打って変わったように仕事に没頭している。それに伴って案件は次々片付いていく。 ・・・ったく、真面目にやりゃすぐ済むのに。こいつは馬鹿だけど能力はそれなりにあるんだからさ。 仕事なんかさっさと終わらせて、アメリカとイチャイチャしたい。三ヶ月振りのアメリカ。俺の中のアメリカが足りないんだ。早く二人きりになって抱き合ってキスしたい。会えなかった時間を埋めるみたいに色んな話しながら求め合って愛し合いたい。顔を見たらアメリカの事で頭がいっぱいになってしまうから、できるだけ見ないようにして、仕事をこなす。 やっとすべて片付いて、部下も含めて食事した後、二人連れ立って俺が泊まるホテルのバーに入った。少し酔ったら俺の部屋に行って・・・期待で胸が膨らむ。 けれど先程からアメリカの様子が変だ。いつもなら部下と分かれたらすぐ肩を抱いてきて、エスカレーターで二人きりになろうものならキスを仕掛けてくるのに、今日は何もない。指一本触れず、欲の篭った視線を向けるでもなく、愛を囁くことすらしない。ただ前を見て杯を重ねている。俺がちらちら見るも、視線を返さない。 自国の人間に男と普通でない関係であると見られるのが恥ずかしく思うようになったのか。少し淋しい気がする。それなら一刻も早く二人きりになりたい。 「なぁ、部屋に来て飲むか?」 聞くと。 「いいよ」 頷いて付いて来た。なのに部屋に入っても手を出して来ない。どうしたんだ、こいつ。戸惑いながら酒とグラスを窓際のテーブルに用意する。アメリカはソファに座って黙ってそれを飲んでいる。俺に目を合わすこともない。いよいよ不安になってきた。 「・・・疲れてるのか?」 「別に、平気だよ」 「そうか」 疲れてるのでなきゃ何なんだ。どうしてそんなに平然としてるんだ。三ヶ月振りだぞ?俺なんか溜まった熱が荒れ狂ってるのに、お前はそうじゃないのか?まさかもう俺に飽きたとか?んなわきゃねぇよな。ねぇよな・・・。 「君こそ疲れてるのかい?元気ないじゃないか」 「んなことねぇよ」 無言で重ねる杯。気まず過ぎる。これが三ヶ月振りに会った恋人と過ごす時間か?おかしいだろ、普通もっと甘いもんだろ。まさか別れたいとか思ってんじゃねぇだろうな・・・。嫌な想像ばかり浮かんでしまう。俺の混乱を余所にアメリカは無言で飲み続け、そのまま二時間経過した。 「じゃあ」 きしりと音をたててアメリカが立ち上がる。やっと愛し合えるのかと期待に震えると、信じられない台詞が耳に入ってきた。 「俺、帰るよ」 「え?」 「そろそろ終電だから」 感情を窺わせない表情であっさりと告げられる。一瞬言葉に窮して、それでも未練がましく尋ねる。 「・・・泊まっていかないのか?」 「どうして?」 「・・・いや、いい」 不思議そうに首を傾げられて、本気で帰るつもりなのがわかった。さっきは平気だとか言ってたけど、やっぱり疲れてたのか。それとも翌朝早くに仕事が入ってるのかもな。名残惜しいけど、我慢だ。 「じゃあ、またな」 なんとか笑顔を作って送り出した。 ××× 絶望的な気分で帰路に就く。 何もしてくれなかった、何も欲してくれなかった。俺を求めてくれなかった・・・。彼にとって俺の存在って何なんだ。ぽろぽろと涙が零れる。久しぶりに会えたのに、またしばらく会えないのに。恋人らしい触れ合いを何一つしないまま別れるなんて、辛すぎる。彼はひどい、ひどいよ・・・。 それから一ヶ月、彼とはまともに口を利いていない。仕事上のやり取りは幾らかあったけど、プライベートでは皆無だ。何だか俺ばかりが想いを募らせている気がして、電話すらしたくなかった。彼から俺を求めて欲しかった。なのに、彼からの電話が鳴ることもなかった。あんまりだ! そうこうするうちに、今日の仕事でイギリスに会えることになった。ほぼ決定事項ばかりなので部下に任せて良さそうなものなのだけど、彼が出て来ると聞いて即参加を表明した。居ても立ってもいられなかったんだ。 一ヶ月振りに見るイギリスの顔。愛しい恋人の、俺を求める・・・ことなく、冷静に揺るぎなく仕事をこなす最低の顔。 ××× 一ヶ月振りのアメリカ。会いたくて会いたくて仕方なかった。 前回思うように愛し合えなかった分、アメリカが恋しくて仕方なかった。おまけに忙しいのか電話すらない。疲れてるなら悪いと思って俺からするのも控えたら、あっという間に一月経ってしまった。・・・もう限界だ。あいつの声を聞きたい顔を見たい会いたい。募る想いに身悶える。 そんな時、部下が渡米すると聞いて居ても立ってもいられず同行を希望した。今回は決定事項の確認と調整だけですよ、と暗に俺の出る幕じゃないと言われるが、構うものか!アメリカに会いたいんだ、邪魔するんじゃねぇ。仕事一つ放り込む分、皺寄せが来て連日寝る暇もなくなってしまったが、あいつに会う為なら何だってする。 部屋にアメリカが入って来る。あぁ愛しいアメリカ・・・あれ、でもどうしたんだ?何か顔色悪いぞ。もしかして体調良くないのか?また金融情勢が思わしくなくて風邪でも引いたか?辛そうで見てられない。早くこんな仕事終わらせて、二人きりになって看病してやろう。そう思って部下の話し合いに相槌を打っていると。 「――どういうつもりだい?」 終始黙り込んでいたアメリカの突然の発言に、俺もお互いの部下達も付いていけず、目を瞬かせる。 「あの・・・アルフレッド、何か問題でも・・・?」 戸惑ってアメリカの部下が声を掛けるが、奴の視線は真っ直ぐ俺に向けられている。 「何がだ?」 訳がわからず問い返すと、アメリカは目を眇めて言う。 「君の恋人は仕事かい?違うだろう?」 「何言ってんだよ、訳わからねぇ」 「わからないのは君だよ!」 苛立ちをぶつけるように奴はデスクをばんと叩いた。 「君にとって俺は一体何なんだい!?仕事上の取引相手かい!?」 「待てよ、お前何をそんな・・・」 怒っている理由がわからない。眉を顰めると、ちっと舌打ちをしてとんでもないことを言い出した。 「君は俺が欲しくないのかい!?」 「へ?」 「なんで俺を求めてくれないんだっ」 何言ってんだ、こいつ。一瞬思考が停止する。発言を反芻する・・・えぇと。 「いやいやちょっと待てっ!今は仕事中・・・」 「またそれかいっ」 慌てて手を振って黙らせようとすると、物凄い眼光で睨まれた。椅子を蹴るようにして立ち上がると、ずかずかと歩いて来て目の前に立ち塞がる。 「お、お、お前、何・・・」 目が据わってる。ヤバい・・・と思う間に、両肩をがしりと掴まれ顔を寄せられた。 「――っ!?やめっ・・・」 部下達の前でキスされるなんて嫌だ!ぞっとして必死に顔を背けると、耳朶に噛み付かれ舐め上げられた。 「ひゃあっ!」 思わずびくりと震えてあられもない声が出てしまう。 「・・・イギリス」 耳元で名前を呼ばれる。 「う・・・・・・」 羞恥と怒りとで涙が浮かび唇が戦慄く。 「俺が、欲しくないかい?」 「――ざっ・・・けんな!!」 怒りに任せて思い切り奴の鳩尾を蹴り込んで突き飛ばす。アメリカは身体を折ってぐほっとむせた。 「何が欲しいか、だっ!欲しい訳ねぇだろ!?仕事中に欲情してんじゃねぇ!!」 怒鳴りつけるが、反省する素振りも見せずにぎろっと睨まれる。 「俺は、欲しいよ!恋人に欲情して何が悪いんだっ!」 「・・・っそこじゃねぇだろ!つうか今っそんな話すんじゃねぇっ!ば、バレるだろ・・・」 ちらりと部下達を見遣ると片方は資料で顔を隠し、片方は頭を抱えて机に突っ伏している。さーっと全身の血が引いていく。 「別に構わないだろ!?知られて困る関係じゃないしっ」 「困るかどうかの問題じゃねぇ!」 「とにかく君が全部悪いんだっ!」 「いきなり全責任人になすりつけてんじゃねぇよっ!仕事中にそーゆー話すんなっつってんだ!」 胸倉を掴んで怒鳴ると、奴は俺の両の手首を掴む。近くで見る水色の瞳は怒りに燃えていて、訳が分からない。 「痛っ・・・!」 ぎりっと手首に馬鹿力が加えられ、骨が軋んで思わず涙ぐむ。お互いの部下達が止めてください、と慌てて制止の声を上げると。アメリカはふんっと鼻を鳴らして俺を椅子にどさりと放った。 「君がキスしてくれなきゃ今回の案件は白紙だ」 「ちょっ・・・だから私情を持ち込むなと・・・」 アメリカは俺の言葉に耳を貸さずに部屋を出て行ってしまう。あまりの事に呆気に取られる。 はっと我に返って部屋の中を見渡すと、部下達が呆れ顔でこちらを見ていた。その突き刺さるような非難めいた視線が痛い。なんでだ、なんでこうなった。俺が何した。俺のせいじゃねぇよ、そんなに責めるなよ。恥ずかしさで死ねそうだ。いっそ死んでしまいたい。羞恥のあまり、思わず涙が浮かぶ。 「いやその、これは違うんだ!そんなんじゃなくて・・・えぇと」 しどろもどろに言い訳をすると、部下が溜息を吐いた。 「追い掛けてください」 「な、なんで・・・」 「そんな顔では仕事になりません」 きっぱりとした口調で言われ、背を押される。 「う・・・す、すまない」 一言謝って、アメリカの後を追った。 ××× 空いている小会議室に入るなり、苛立ちをぶつけるように椅子をがんっと蹴り飛ばして、どかっとデスクの上に腰を下ろす。ネクタイを緩めて頭をぐしゃぐしゃと掻き回しながら心の中で悪態を吐く。 あぁくそっ何もかもが腹立たしい。彼の口からは仕事仕事仕事!そればかり!いっそ仕事と結婚すれば良いんだっ。ワーカーホリックにはお似合いだよっ!どうせ俺のことなんか暇潰しくらいにしか思ってないんだ!俺はなんであんな薄情な人が好きなんだろう!?自分で正気を疑うよ! 悔しさで涙が浮かぶ。きしりと歯軋りをする。――それでも彼しか考えられない。彼が好きなんだ。大変な仕事も難なくこなす彼を尊敬してる。彼の仕事を邪魔するつもりもない。だけど。 彼がもし・・・少しでも俺を見て、嬉しそうに笑ってくれたなら。それだけで俺の心は満ち足りただろうに。あんな、俺のことなんかどうでも良いみたいな顔して適当にあしらってくれるから、悔しくて堪らないんだ。 不意にコンコンとドアをノックする音が聞こえる。カチャっと開かれ「アメリカ?」と中を窺うイギリスの顔が覗いて、目が合った。 「なんだ、ここにいたのか」 言いながら部屋に入り近付いてくる。今更ながら子供のように駄々を捏ねたことが恥ずかしくて、顔を背ける。 「お前、何怒ってんだよ」 イギリスは呆れ顔で肩を竦める。 「・・・わからないなら、いいよもう」 「良くねぇだろ、明らかにお前おかしいぞ」 「おかしいって何さ!おかしいのは君の方だろ!?」 何で君の言い様はいつもこうなのかなっ、俺を苛立たせる天才だよね、ほんと! 「はぁ?」 それでも鈍い彼には何も伝わらないらしく、きょとんとしている。 「どうしてそんな風に平然としてられる訳!?俺の方全然見向きもしないで仕事しててさ!どうせ俺のことなんかどうでも良いんだろ!?だったら放っといてくれよっ!」 一気に捲し立てると、イギリスはわざとらしくはぁっと溜息を吐いた。 「何とんちんかんな事言ってんだよ。どうでも良いわけねぇだろ?」 「嘘だ!つっめたーい目で見てたくせにっ」 「んなことねぇよ、必死に無表情作ってただけだって」 「どうして無表情でなきゃいけないんだい!?」 君の言うことは意味がわからないよ!そう言うと、彼はさも当然のことのようにさらりと答える。 「だってお前、スマートじゃねぇだろ?仕事の時は集中するのが紳士の嗜みってもんだ」 「俺は紳士じゃないからわかんないよっ」 「お前のは紳士以前の問題だろ」 「悪かったねっどうせ俺はいつまでたっても子供だよっ」 「悪いとは言ってねぇだろ?お前のそういうとこも好きだぜ?」 あまりにあっさり言うから、一瞬意味を把握し損ねた。意味を呑み込むと共にかぁっと頬が熱くなる。 「な・・・・・・っ不意打ち、ズルイっ!!」 「ズルイって何だよ、お前恋しさに今回の仕事に無理矢理同行して来たんだぜ?」 「・・・嘘」 なんなんだこの人、さっきまで仕事第一みたいな堅物だったのに、なんでいきなりデレてんのかなっ。 「マジだって、信じろよ少しは」 「でもっ結局全然俺を見てくれなくて・・・お、俺は君に会えて嬉しくて堪らなかったのに・・・」 恥ずかしさを誤魔化そうと恨み言を重ねると、イギリスは呆れたような顔で笑った。 「あのなぁ、俺だってお前に会えて嬉しかったぞ?お前の顔見てすげぇ堪んなくなっちまったよ。けどさ、どうせならさっさと仕事片付けて二人でゆっくりしたいだろ」 「・・・俺は仕事に集中する為にも、まず君と少しでも心を通わせたい」 ぼそぼそと唇を尖らせて言うと。 「お前が心だけで満足するならな」 もっともな返しをされた。 「あと、キスしたい」 「キスだけで済むならな」 「・・・・・・抱き合うのはOK?」 「抱き合って押し倒したりしねぇだろうな?」 「えっと・・・」 それはどうだろうな。彼の温もりを全身で感じた後、自制できるとはこれっぽっちも欠片も思えない。 「お前な・・・」 じとっと半眼で睨まれた。うう。でも必死に食い下がってみる。 「でもでもその方がすっきりするんだぞ!」 「そりゃお前は突っ込んで出したらすっきりするだろうけどな、受け入れる側の俺はその後仕事になんねーんだよっ!」 あけすけな言い様に一瞬言葉に窮する。ついでに受け入れた後の淫らなイギリスの姿を想像してしまった。あの、蕩けきったエロい顔。荒い息を肩でして力なく横たわる身体。・・・ヤバい、全身の熱が一箇所に集中するのを感じる。 「あ、えっと・・・無理、かい?」 「無理に決まってんだろ!?――なんなら一度体験させてやろうか?あぁん?」 凶悪な顔をにやりと歪めて、低いドスの利いた声で言われてぞっとする。一気に熱が冷めた。 「いやいやいやいいよっ謹んで遠慮しとくよ!」 「別に遠慮すんじゃねぇよ・・・俺も一度お前に突っ込んでみた・・・」 「それ以上言わないでくれよっ聞きたくないよ!考えたくもないよ!」 ぞわりと怖気立つ。嫌だ嫌だ嫌だ!俺は上がいいんだ下にはなりたくないんだっ! 「じゃあ仕事前にやろうとか二度と思うなよ?わかったな?」 「わ、かりました・・・」 あまりの事に涙が溢れてた。うん、こんな恐ろしいこと言われるくらいなら、仕事前は我慢しますゴメンナサイ。 「ったく、世話の掛かる奴だなお前は」 イギリスは兄貴面して肩を竦めた。むかつく。 「で、でもさ・・・会いたいって思ってくれてるなら、どうしてプライベートで来てくれなかったんだい?仕事で来るからこんなことに・・・」 時間を作れたのならプライベートで来れば良かったんだ。そう思って言うと。 「甘い!英国の連中は忙しい時は猫の手も借りるんだ。俺がプライベートで渡米すると聞いたら喜んで仕事押し付けてくるに決まってる!」 「いやでも君、あくまでイギリスその人なんだから・・・」 「わかってないな、アメリカ。奴らは忙しい仕事納めの日に、手が足りないと言って俺にトイレ掃除押し付けたんだぞ」 国にトイレ掃除をさせる国民・・・うん、それはないな。 「俺、君のとこから独立して良かったよ」 心底そう思って呟くと、んだとコラっと凄まれた。 「ねぇ、キスしたい。いいかい?」 「・・・・・・」 まだ言うか、と顔に書いてある。いや、わかってるよ?わかってるんだけど、それでももう今回は我慢できないんだよ。 「キスだけっほんとキスだけだからっ!他に何もしないから!ほら、手も後ろで組んでるから!」 「――いいぜ。俺のせいで今回の案件ぽしゃったら、アイツらめちゃくちゃ恨みそうだからな。目ぇ瞑れよ」 「わかった」 彼が受け入れてくれたことが嬉しい。期待に鼓動が高鳴り、そっと目を瞑る。 「歯ぁ食いしばれ」 え、なんで?思う間に、ぼかっと頬を殴られて後ろに吹っ飛んだ。 「痛いよっ!何す・・・」 尻餅をついた俺の上に覆いかぶさるようにイギリスが馬乗りになって来て、唇が重ねられた。 ・・・なんでそんなに暴力的なんだ。心の中で文句を言いつつ、侵入してきた舌をやわやわと吸う。気持ち良さそうな表情のイギリスの頭を手で抑え込んで、舌を絡めながら角度を深めていって。もう片方の手でシャツの裾を引っ張り出して脇腹を撫で回したら。 「んんっ・・・」 感度の良い身体がぴくんと跳ねた。あぁもう限界だよ、やっぱり我慢とか無理。今すぐやりたい――そう思ってベルトに手を掛けたその時。 「アルフレッド――どこですか――」 「アーサー、どこにいらっしゃいますか?出て来てください今すぐ」 廊下から部下達の呼ぶ声が聞こえてきた。あ、そういえば仕事中だった。 「そろそろ仲直りできたなら仕事に戻ってください――アルフレッド、聞いてますか――?」 「話し合いは終わってます。貴方も付いて来た以上、承認くらいはきっちりしてください」 我に返ったイギリスが、あたふたと身だしなみを整え出した。ちぇっ、もう少しだったのに。とは言えもし現場に踏み込まれていたら、二度と彼はキスどころか指一本触れさせてくれなくなっただろうな。既の所で良かったのかもしれない。 ピンク色に染まっているイギリスの頬にちゅっとキスをして。真っ赤になって口をぱくぱくさせている彼に手を貸して助け起こした後、その手を握り締めたままドアに向かったら。 「ちょっ・・・おま、離せ!」 手をぶんぶんと振り回す。 「やーだ。いいじゃないか、これくらい。もう公認なんだし」 「だ、誰が公認だ、ばかぁっ!お前が勝手にバラしたんだろうがっ!」 イギリスが喚き立てて手を振り解いた。 「あーひどいなぁ」 「ひどくねぇっ!」 ぎりっと睨んでくるイギリスに肩を竦めながらドアを開くと。ばっちり部下達と目が合った。あれ、もしかしてずっとここにいましたか? 「あ・・・」 「えー・・・」 「お二方共、痴話喧嘩は程々になさってくださいね」 部下が溜息混じりに言うと。 「痴話喧嘩じゃねぇぇぇえっ!!」 全身真っ赤になったイギリスが照れ隠しに吠えた。 |