USA


 今日の会議はいつも通り。俺のナイスでグレイトでパーフェクトなアイディアを偏屈なイギリスが否定して。それじゃあとフランスが俺とイギリスの意見に反対して。イギリスとフランスが取っ組み合いの喧嘩を始めたら日本がオロオロして、イタリアはそんな喧騒の中で「シェスタ〜」とかほざいて寝始めて、ロシアが「皆僕の家に来たら仲良くなれるのに」なんておかしな事言い出して。・・・椅子がそういえばもう一つあったっけ、あ、影の薄い兄弟か。そんな感じに場が紛糾したところでドイツが吠えた。
 本当にいつも通り、何も変わらないように見えた。だけど、俺が気付かなかっただけで、実は違ったらしい。


 会議が終わると同時に、フランスが彼の正面に座るイギリスに言葉を投げ掛けた。
「おい、イギリス。荷物纏めたらそのまま待ってろ」
 イギリスは嫌そうな顔をしつつも、小さく頷いた。
 なんだ?また二人で飲みに行く約束でもしたのか?でもイギリスは俺の恋人だぞ!それも、大西洋を挟む遠距離恋愛かつお互い多忙でなかなか会えない関係の、だ。久し振りに会えたんだ、会議が終わったら二人きりで食事をしてそのまま部屋に入って、一晩中たっぷり愛し合うつもりでいた。彼もそれを望んでいると思っていたのに・・・違ったのか?
 いつでも会える、出来れば会って欲しくない隣国と、なんで約束なんかしたんだ!
 頭にかあっと血が上り、心はどす黒い嫉妬に塗り込められる。が、それを顔に出す程俺は子供じゃない。にっこりと笑顔を浮かべたまま、思いの丈をすべて手に凝縮すると、持っていたペンがばきんと折れた。すかさず隣に座る日本が嘆息したけど気にしない。
 ペンが折れた音に、フランスがこちらを振り向いて、にやっと厭らしい顔で笑った。
「あーめーりーか、邪推しないの。お前も荷物纏めたらおいで」
 子供を宥めるように言いながら手招きする。・・・殴ってもいいだろうか。
「酔っ払ったおっさん達の世話は御免だよ」
 憎たらしい顔から視線を外して書類をトントンと揃える。二人が親しげに飲み交わす姿なんか見たくない。けど、俺がいない場所でどんな状況になるのか・・・まさか酔った勢いで事に及んだりしない・・・よね?ぐしゃっと手の中の書類が潰れる。
「今日は飲まねぇって。いいから来いよ」
 そう言って荷物を纏めたフランスは鞄を持ってイギリスの横に立つ。――そこは俺の場所だよ。ぎりっと歯軋りして睨みつける。でもそれを口に出すのは格好悪いので、心の中で叫んだ。
 イギリスこそ何か言えば良いのに・・・会議の時とは打って変わって終始無言だ。先程の舌鋒は何処に行ったんだ!仕方なく荷物を纏めて彼等の元に行く。
「よし、じゃあ行くか」
 言うなり彼はイギリスのスーツの胸元にするりと手を入れた。
「――――っ!?」
 ほとんど反射的にフランスの手首を掴む。
「な、何してるんだい・・・?」
 彼の突然の行為に思考が付いていかない。呆然としたまま尋ねると、フランスはきょとんとして。
「何って・・・これ」
 掴む俺の手をやんわりと外して、持ち上げた彼の手には、一枚のカード。
「・・・カードキー?」
「そ。ほらアメリカ、そこにしゃがめ」
「え?」
「・・・いらねぇ。余計な事こいつに言うな」
 言われた意味がわからずフランスに聞き返すと、イギリスがじろりとフランスを睨めつけた。
「でもこんな時に使わなくていつ使うんだよ、こいつの馬鹿力。言っとくけどお兄さんは御免だよ」
「俺だっててめぇなんざお断りだ。つうかいらねぇって、行くぞ」
 そう言って歩き出すイギリスに肩を竦めて、フランスはイギリスの鞄を俺に差し出す。
「・・・何?」
「持ってやって。行こう」
 そう言ってイギリスの後を追う。・・・はっきり言って訳がわからない。彼等の間では何事かが成立しているらしいのに、俺にはそれがわからない。こんな時が昔から、一番嫌だ。
 イギリスとフランスの間には、誰も入る隙のない、強い絆があるように感じる。単なる腐れ縁だと二人は言うけど、千年の時を共に生きてきたという事実は・・・羨ましくて妬ましくて悔しい。それが例え殴り合いの喧嘩をする関係であったとしても、だ。だってそれだってお互いを認識して、真っ向からずっと見つめてたって事だろ。他でもない、彼だけを見ていた年月。嫉妬しない訳がない。
 取り残されて俯く。そこにフランスが振り返って声を掛けて来た。
「どうした?早く来いよ」
「・・・何処に?」
「だからイギリスの部屋。置いてくぞ」
 ・・・何で君が当然のように彼の部屋に行くんだ。眇めた目で見ると、フランスは物知り顔でにこりと微笑む。くそっムカつく。仕方なく二人の後を追うように付いて歩く。そしてイギリスが宿泊する部屋に辿り着いた。
 フランスがカードキーを差し込み解錠して先に入る。するりと壁際に立つと、ドアが閉まらないように手で押さえて、その横をイギリスが通り抜けて行った。入口で戸惑う俺に、フランスは気障ったらしい仕草で「どうぞ」と招く。君に言われる筋合いないよ。


 部屋に入るとフランスは鞄を置いてハンガーを手に取る。何の為に?と思えばイギリスから脱いだスーツを受け取って、それをワードローブに仕舞った。続いて再びハンガーを手に取る・・・振り返るとイギリスが脱いだシャツとネクタイを差し出していた。更にフランスはズボンハンガーを手に取る。嫌な予感を覚えつつイギリスを振り向くと、彼はスーツのズボンとベルトを差し出していた。そうしてイギリスはパジャマを身に纏い、フランスは備え付けの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出す。
 俺はと言うと、ただただ呆然と立ち尽くしていた。――何これ、ねぇ、君達何やってんの?まるで長年連れ添った夫婦のように言葉なく交わされるやり取りに、心底ムカムカする。こんなの見せつけられて、平気な訳ない。なのに愛しい恋人も、その腐れ縁も、俺の心中に気付く様子はない。恐らく、それ程までに彼等の間では至極自然に行われるやり取りなのだろう。・・・もう泣きたい。
 それでも悔しいので、壁に寄り掛かって平静を装いながら事態を見守ると、フランスはペットボトルをイギリスに差し出した。
「お前持って来てる?」
「あぁ」
「そ。じゃあさっさと飲んじゃいなさい」
「ん」
 イギリスは彼らしくもなく素直にフランスから水を受け取ると、サイドボードの上に置かれた小さなケースから取り出したカプセルを飲み込む。
「何それ」
「・・・薬」
 訝しんで俺が尋ねると、イギリスは嫌そうに目を逸らして答える。
「いやだから何の?」
「・・・・・・」
「風邪薬だよ」
 答えないイギリスの代わりにフランスが答える。
「・・・え?」
「あれ、気付いてなかったの?」
 きょとんとフランスに見返されても、何が何やらわからない。
「今こいつ、風邪っぴき」
 そう言って指差されたイギリスは、顔をしかめると苛立ったように舌打ちをした。
「別にどうってことねぇよ。一々こいつに言うんじゃねぇ」
「でもお前ら付き合ってんでしょ?愛しいアメリカに看病してもらえば〜?」
「るせぇな、余計な世話だ、ばーか」
「ったく、ほんとに素直じゃないねぇ。ほら、もう寝ろ」
 ペットボトルを受け取ってイギリスの額をこつんと突く。
「てめぇの指図は受けねぇよ」
「じゃあアメリカ、あとよろしくな」
「ちょっ・・・待ってよ!」
 ペットボトルを冷蔵庫に仕舞ったその足で部屋を出て行こうとするフランスの腕を、思わずがしりと掴んだ。
「何?どした」
 怪訝そうなフランスに必死に説明を求める。
「か、風邪って・・・、いつから?」
「さぁ?熱出たのいつ?」
 首を傾げて俺の質問を更にイギリスに投げる。
「昨日」
「だって」
 簡潔なイギリスの答えを受けて、フランスが俺に語尾だけで応じる。
「・・・じゃあ、会議中も、熱・・・あったの?」
「一時は少し下がってたんだ」
 想像もしなかった状況に、足元がぐにゃりと歪む。喉が引き攣って声が震える。俺の心配を感じたのか、イギリスがぼそりと呟く。
「無理すんなよなー。会議なんざ、お前いない方が穏便に纏まるっつーの」
「んだとこら!てめぇこそ大した意見なかったくせに!」
 へらへらと笑うフランスに、イギリスがいきり立った。とても病人相手とは思えない、いつも通りのやり取り。でも俺は、そんな風に自然に振る舞えない。
「君は・・・知ってたの?」
「おかしかったろ?こいつ」
 何処が?至極当然のようにフランスは言うけれど、今日の会議中、イギリスの様子に異変など感じられなかった。つまり。
「・・・俺には何も言わなかったくせに、フランスには助けを求めた訳?」
「え?」
 どろりとした嫉妬に心を飲まれながら言うと、イギリスとフランスは二人して目を丸くしてきょとんとした。
「違う違う、会議中様子がおかしいから風邪引いてんじゃねぇかって思っただけ」
「・・・は?」
「こいつが俺に泣きつくような殊勝なタマかよ」
 あっけらかんと笑うフランスに、「うるせぇ!さっさと出てけ!」とイギリスが怒鳴る。「おー怖っ」と、全然怖がるでもなく笑いながらフランスが「Salut〜」と投げキスをすれば、イギリスは避ける仕草をする。「避けんなよ!」としつこく投げキスするフランスの顔目掛けて、イギリスは枕を投げ付けた。その枕をフランスが投げ返してイギリスが更に投げ付けて・・・。
 俺は、その横で一連の流れを黙って見ていたけど、そろそろ限界だ。沸々と込み上げる怒りを抑え切れず、握り込んだ拳がぶるぶると戦慄く。ぷつん。・・・堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてくれないかっ!!!」
 枕を挟んで掴み合っていた二人の動きがぴたっと止まる。
「わかったよ、もうわかったから君に用はないよ!」
 フランスをイギリスから引っぺがしてぐいぐいとドアの方へ押しやり、廊下へ追い出す。
「そんな妬かなくても、別に何も・・・」
 肩を竦めるフランスをぎろりと睨み付ける。
「イギリスが世話になったね!ありがとう!後は俺に任せてくれていいよ!じゃあね!」
 バタンとドアを閉める。オートロックだと知っているけど、更にがちゃんと施錠する。そうして部屋に戻ると、呆気に取られたイギリスがこちらを見ていた。


「・・・何怒ってんだ?」
「別に怒ってないよ」
「嘘つけ、怒ってるじゃねぇか」
「怒ってないってば!俺が怒ってると思うなら、理由に見当くらいついてるんだろうね!?」
「・・・腹減ってんのか?」
 ぶちんっ。血管が一本と言わず数本切れた気がする。「今日はスコーン焼いて来てねぇんだよな」、などと戯言が聞こえるけど、これはきっと幻聴だ。病人相手に本気で怒る訳にいかない。落ち着け俺、落ち着け。イギリスに背を向けて深呼吸を繰り返す。
「あ、飴があるぞ、食うか?」
「いらないよっ!」
 キャンディーを差し出すイギリスを、振り向きざまにぎっと睨む。
「じゃあ、何か頼むか?」
「別に俺はお腹空いてる訳じゃないよっ」
 さっと取り出したホテルのメニュー表をイギリスからひったくる。とにかく食べ物の話題から離れてくれ。
「じゃあ、どうしたんだよ」
「・・・わからない?」
「わかる訳ねぇだろ」
「そうだよね、わかってたらこんな事になってないよね」
 ぷいと顔を背けて窓際に移動し、外の景色を眺める。無性に泣きたくなった。悔しくて哀しくて腹立たしい。
 目の前でいちゃついて仲良し振りを見せつけたイギリスとフランスを許せないのは勿論の事。それより腹立たしいのは・・・フランスが気付いたイギリスの不調を、俺は全然気付けなかったという事だ。仮にも恋人なのに・・・有り得ない。
 だってイギリスはいつも通りに見えた。彼の意見は鋭く正鵠を射たものだったし、その姿は常にぴしっと背筋を伸ばしていた。言われてみれば、頬は少し赤みを帯びていたかもしれない。でもそれだけだ。熱があったなんて、気付かなかった。フランスはそれだけで気付いたのだろうか?その差に尚のこと腹が立つ。
 彼が不調の時、困った時、一番に駆け付けて助けてあげようと思ってた。その為に独立して力を手に入れたのに・・・気付かなきゃ助けられないじゃないか。
「・・・なぁアメリカ、俺何かしたか?」
 何もわかっていないイギリスの声に、唇を噛む。イギリスも、熱があるなら俺に言ってくれれば良かったんだ。そしたら迎えに行ったり会議の時も辛くあたったりせず、彼の体調を慮ったのに。優しくしたのに。彼は・・・俺の助けを必要としなかった。悔しい。恋人なのに!
 窓枠の上に置いた両手をぐっと握り込む。きつく噛みすぎたのか、口内に血の味が広がった。くいっと袖を引っ張られてそちらに目を向けると、イギリスが心配そうな顔で見上げていた。
「何してるんだい?熱があるなら寝ていなよ」
「・・・ごめん」
 そう言って謝るから、余計に苛立つ。理由がわからないのに謝罪されても意味はない。
「どうして謝るの」
「俺が、何かしたんだろ?だからお前怒って・・・」
「違うよ、怒ってるんじゃない。ただ・・・悔しいだけ」
 激しい怒りは通り過ぎて、今はただ哀しかった。気付けなかった自分、頼りにされなかった自分。俺は君にとって一体何なんだ。


「アメリカ、会いたかった」
 イギリスが甘えるように身を寄せてくる。
「俺だって、会いたかったよ」
 そう言って抱き締めた身体は・・・確かに熱をもって熱かった。
「風邪を引いてるって、どうして言ってくれなかったんだい?」
 彼を抱き締めたまま、耳元で囁くように尋ねる。彼はだるくて立っているのも辛いのか、俺に身体を預けて、はぁっと吐息を漏らした。
「・・・言えばお前、いつも通りじゃなくなるだろ?」
「そりゃ」
「これはただの俺個人の体調不良なんだ。なのに他の連中に知られて、英国の問題と勘繰られたら困る」
「フランスにはバレてるじゃないか」
「あいつは良いんだ」
 何の拘りも見せずに言うから、途端に胸の中がもやもやする。醜い嫉妬に頬が引き攣って、笑みが歪む。
「――彼になら知られても構わないって?」
「あと、お前もな」
 引き攣れた頬をぶにっとイギリスが人差し指で突く。
「え?」
「二人になれば言おうと思ってた」
「・・・遅いよ」
「お前にポーカーフェイスが出来るなら教えるさ。それに、もしこれが英国の危機なら一番に知らせてる。・・・頼りにしてんだぜ?」
 彼は含みを持たせるように片目を瞑ってにやりと笑う。俺がフランスに嫉妬していたのに気付いたか。なんだか言いくるめられたようで釈然としない。
「んな顔するな」
 そう言って首に腕を回して引き寄せられ、顔が限りなく近付いたかと思うと・・・唇が重なった。いつもより熱いそれにドキッとして肩を震わすと、すぐさま舌を差し入れて来て絡められる。その熱に理性が溶かされそうになるけれど、彼は病人なんだ、盛ってる場合じゃない。必死の思いで引き離すと、「なんだよ」と口を尖らせて文句を言われた。
「・・・熱、あるね」
 その火照った顔を正視しないようにして、額に手をあて、どれ位かと計ろうとすると。温かい手に手を取られて、掌にちゅっと柔らかい唇が押し付けられた。続いてぺろっと舐められて、中指をぱくんと咥えられる。
「な、何してるんだい?」
 ぎょっとして思わず手を引く俺に構わず、彼は俺の指をちゅうちゅう吸いながら舌先で舐め上げて。指の先を舌で包み込んでぐりぐりと舐め回す。その行為は口淫を思い起こさせて、一気に下半身に熱が集中する。だ、か、ら!彼は病人でそんな事してる場合じゃなくて!意識を無理矢理余所へ向けようと、顔を逸らして深呼吸を繰り返すと。
「・・・なぁ、これで俺の、ほぐしてくれよ」
「なっ・・・何、馬鹿なこと・・・」
 慌てて手を振り解いて向き合うと、彼の瞳は熱だか欲情だかに濡れていて、相当にいやらしい顔をしていた。
「お前が欲しい」
 イギリスのいつになくストレートな物言いに唖然とする。何これどういうこと?ここにいるのは本当にイギリス?なんで俺迫られてるんだ?いや、いつもの彼なら問題ないよ?喜んで彼が求めるすべてのもの、それ以上のものもあげるよ。彼がもう無理と根をあげるまで、たっぷり可愛がってあげる。でも今彼は風邪を引いて熱があって・・・そんな状態で無理はさせられない。って、人が一生懸命理性総動員してる時に何してんのかな、この人はっ!
 イギリスは俺のスーツのボタンをぷちぷちと外すと、ネクタイをしゅるりと引き抜き、更にシャツのボタンに手を掛けて、手慣れた仕草で次々外していく。その手を慌てて掴んで止めさせる。
「ちょっ・・・何してるんだいっ!?」
「何って脱がしてんだよ」
「それは見たらわかるよ!なんで俺を脱がすんだっ!」
 彼はきょとんして首を傾げる。
「・・・今日はそういうプレイなのか?」
「ちっがうよ!服着たまましようってんじゃなくて!熱あるんだからおとなしく寝てなよ!」
 そう言うと。イギリスの表情はみるみる不機嫌になっていき、はぁぁっと深い溜息を吐いた。
「だからお前に知られたくなかったんだ」
「何が?」
「お前やさしいからさ、俺が風邪引いてるって知ったら、絶対やらなくなると思ったんだ」
「・・・は?」
 イギリスの行動言動に付いていけず、一旦思考が停止する。彼は「あのクソ髭、余計なこと言いやがって」などと凄まじい形相で吐き捨てるように呟く。えぇと?今日一日のフランスの発言を一気に情報処理して、次いでイギリスの発言も同じく処理すると、一つの結論に達した。
「・・・まさか、俺に教えなかった本当の理由ってそれ!?」
「切実な問題だぞ!?前やってからもう二ヶ月以上経ってんだっ!次に会えるのがいつかも知れねぇってのに、お預けとかないだろ!」
「病人のくせにそこまでセックスに拘る方がないよ!」
「なんだよっお前は俺が欲しくねぇのかよ!?」
「欲しいに決まってるだろ!?でもっ・・・君の、身体の方が大切なんだ」
「・・・・・・」
 言い聞かせるようにやさしい口調で言うと、彼は悔しそうに唇を噛んで俯いてしまった。可哀相だと思うし、俺だって溜まった欲を吐き出せないのは辛い。でも、無理して風邪を拗らせたりしたら・・・その方が何万倍も辛いんだ。
「わかったらベッドに入って。身体休めないと治らないよ」
「じゃあ、せめてお前も一緒に寝てくれよ」
 潤んだ瞳を上目遣いにしておねだりとか、絶対わかってやってるよね。それでも素直に反応してしまう自分の下半身がちょっと哀しい。
「・・・仕方ないね。言っとくけど添い寝するだけだからね!?」
 きっちり釘を差すと、彼はにこりと笑って、「おう」と応じた。


 上着を脱いで、寝転ぶイギリスがぽんぽんと叩いて示す場所に横たわる。すぐさまイギリスが抱きついてきた。
「ちょっと!?」
「なんだよ、これ位良いだろ?」
「言いながらシャツの中に手を入れないでくれよっ!」
「お前の肌に触れたいんだ。直接温もりを感じられたら、安心して寝れるからさ」
 そう言って胸をぺたぺたと撫で回しながら頬擦りする。
「・・・・・・っ、さっさと寝なよ!」
「さっき薬飲んだから、言われなくても寝るって」
 言ってる事はまともなのに、くふっと笑いながら続ける行為はエスカレートしていて。鎖骨をなぞるように舐めたりキスをしたり、乳首を捏ねるように弄っている。・・・そんなとこ触っても、君じゃないんだから感じたりしないんだぞ。それでもいつもと違って俺を素直に求めてくる、その誘惑にくらくらする。
「・・・ねぇちょっと、腰、押し付けてこないでよ」
「お前だって硬くなってあたってるぜ?」
 そう言って俺の身体の中心に、彼のそれを擦るように押し付けてくるから、一気に俺のモノが膨れ上がって硬度を増す。
「俺は至って健康だから良いんだよ!」
「俺だってちょっと熱っぽいだけだ。・・・なぁ、やろうぜ?」
 蠱惑的に囁かれて、ぷちん、と何かが切れる音が聞こえた。
「・・・このエロ大使!もう、どうなっても知らないよ!?」
 がばっと身を起こすなり、彼の身体に覆いかぶさる。彼は、「そうこなくちゃ」と嬉しそうに笑った。


 部屋の中にぴちゃぴちゃと水音が響き渡る。イギリスの感じやすい左の乳首を口に含んで、甘噛みしながら舌先で転がすと、んんっと艶やかに喘ぐ。右の突起も同時に指先で摘まんで捏ね繰り回してきゅっと痛いくらいに引っ張ると、その形のままぴんっと上を向いて固くなった。そこを指で弾くと、あんっと可愛い声を上げてびくんと背を反らせる。
「もうここ、女の子みたいだね・・・ちょっと触っただけでびくびくしちゃって」
「やっ・・・誰の、せいで・・・」
「それはもちろん俺だよね?君がよくなるように弄ってきたんだから」
 言いながら両の突起をぐりっと捻ると、ひっと悲鳴を上げた。ほんと、感度良いなぁ。びくびく震える身体を抑え込んで両方の乳首を交互に舐めて可愛がった後、白く浮き上がった鎖骨に唇を寄せて、ちゅうっときつく吸い上げる。
「あ、ばか・・・」
 俺の意図に気付いたイギリスが慌てて「やめろ」と髪を引っ張るけど、もう遅いよ。そこにはくっきりと付いたキスマーク。俺のものだって証。愉悦に浸って口角を上げると、ぽかりと叩かれた。
「痕つけんじゃねぇって言ってんだろっ」
「良いじゃないか、君がきちんとネクタイ締めてれば見えないよ」
 暗に、他人に胸元を曝け出す程に気を許すなと言う。特にあの腐れ縁の隣国に。まだ文句を言いたげな彼の首筋を舐め上げて耳朶に噛み付くと、ひゃっと声を上げて身体を竦める。耳の中まで舌先をねじ込んで愛撫すると、ぎゅっと目を瞑ってしがみついてきた。あぁ可愛い・・・この身体は全部俺のもの。
 翠の瞳はとっくに潤んでいてぽろぽろと涙が零れてる。身体を撫で回しながら目尻に溜まったそれをぺろりと舐め取って、ちゅ、とキスを落とす。次いで頬、鼻、額、顎と一箇所だけ避けるようにキスしていくと、我慢できなくなったイギリスが俺の後頭部を抱え込んで、唇を押しつけてきた。
 侵入してきた舌を辿るように俺も舌を差し入れて、思う存分彼の口内を貪る。上顎を舐め回して歯列をなぞると、ひくんと震えて甘い息を漏らす。俺の唾液が彼の喉の奥へ流れていくのを、こくんと喉を鳴らして飲み込む。なんてやらしい音。
「は、ぁ・・・メリカぁ・・・」
「・・・何?」
「はや、く・・・んんっ・・・」
 じれったそうに腰を揺らめかせる彼の内股を布地越しにそろりと撫で上げると、過剰な程に反応して喘いだ。
「腰くねらせてやらしいね・・・誘ってるの?どうして欲しい?」
「触っ・・・て、俺の・・・お前の、手で・・・」
 熱っぽく蕩けた瞳を向けて荒い息で懇願するイギリスに、「良くできました」とにっこり笑って啄ばむように口付ける。パジャマの中にするりと手を差し入れて、下着越しに彼の性器をそっと握り込むと、ぎゅっと目を瞑ってふるふると身を震わせた。手の中のそれは既にぱんぱんに張り詰めていて、先端から溢れた粘液が下着を汚していた。
「キスして胸弄っただけなのに、もうこんなにして・・・えっちな身体だね」
「ち、違・・・や、あぁんっ!」
 手で軽く上下に擦るだけで膝をがくがくと震わせた。これはすぐにイっちゃうかも?そう思いながらパジャマごと下着を下ろして、ぷるんと弾けて飛び出してきたその先端に口を寄せて、ちゅ、とキスする。先走りがとろとろと溢れてくるのをぺろりと舐め取って、口の中に迎え入れた。
「ひゃっ・・・あ、ぁんっ・・・」
 びくんと腰が跳ねるのに構わずべろべろと舐め上げて、喉の奥まで咥えた。そのまま頬肉で挟み込んで上下すると、彼はぶるぶる震えて啜り泣きのような声を漏らす。本当に余裕がないんだな・・・もしかしてずっと俺の為に我慢してくれてたのかな?真実はどうかもわからないその想像だけで、胸が幸せでいっぱいになる。


「はぁ、ん・・・あぁっも、ダメ・・・イっちゃ・・・」
「いいよ・・・このまま、出して」
 切なげに掠れた声に頷いて、絶頂を促すように先端をぐりぐりと舐め回して軽く歯をたてると。
「ひ、・・・あっ、あぁぁぁぁっ!」
 一際高い声で鳴いて彼は果てた。口の中に吐き出された彼の精をとろりと手に取って、くたりと弛緩した身体の後孔に擦り付けて解そうとしたら。
「はふ・・・ぁ、ん・・・メリカぁ・・・」
 達したばかりの甘ったるい声で名を呼ばれて、腰がずくんと疼く。
「な、に・・・?」
 我ながら余裕ない声で問う。これから彼と繋がって得られるであろう快感を思って、はぁはぁと荒い息を吐くと。イギリスの口から信じられない言葉が出てきた。
「眠ぃ・・・」
「は!?」
「また、後で・・・な」
 そう言って、すかーと寝息を立てて眠ってしまった。どうやら風邪薬が効いて眠くなったらしい・・・とは、後から冷静になって思えた事。今は・・・。
「ちょっ・・・ね、これ、どうすんの!?俺どうしたらいいんだいっ!?」
 肌蹴たパジャマを僅かに身に纏うのみの、あられもない姿で眠るイギリスを前に、ぎりぎりまで張り詰めた俺のモノ。・・・挿れちゃって、いいだろうか。
「――――っ!」
 寝込みを襲って無理矢理事に至るのは、流石にヒーローとしてやってはいけないだろう。というか人としてやってはいけない・・・でも俺、人じゃないし。いやいやダメだ、国を体現する身なればこそ、尚のことやってはいけない。ここは我慢我慢・・・・・・できるかぁっ!!
 くっそ、この淫乱め。誘っておいて先に寝るとかどうなんだいそれ!俺のこの欲求不満はどうやって解消したらいいのかなっ!?そもそも君が病人だから俺は必死に我慢しようとしてたのに、君が強引に始めたんじゃないか。やりたがったのは君の方だ。いやもちろん俺もしたかったけど。でも・・・あぁもう、とにかくこの熱をどうにかしないと狂いそうだ。
 先程までの火照りが嘘のような、真っ白で華奢な彼の身体をじっと見下ろす。――挿れるのはダメ。口に捻じ込むのは、・・・ダメだろ俺。いっそ気持ち良さそうに眠る顔にぶっ掛けてやりたいけど、熱があってシャワーも浴びられないのに、それは可哀相だ。
「・・・これくらいは、許してよねっ」
 眠るイギリスの手を取って俺の性器にあてがうと、彼の手ごと両手で包みこんで扱き上げる。思うように力を入れられないのでまだるっこしいけど、目を閉じると彼の手でしてもらっているように感じられて、欲望が爆発する。
「・・・っは、い、ギリスぅ・・・っ」
 どぷっと白く濁ったものを彼の腹の上にぶちまけると、脱力した身体が沈むに任せて彼の上に覆いかぶさる。
「ん・・・重い・・・」
 もぞもぞと身を捩って文句を言われたけど、知るか。
 彼の唇に軽くキスをして、濡らしたタオルで身体を綺麗に拭いてあげてパジャマを着せてあげる。そうしてから、彼の隣に身体を横たえた。――心の中でひとつ、誓いを立てながら。
 朝起きて熱が下がってたら・・・絶対、ぜぇったい!!抱き潰してやるんだからな!!!





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