UK イタリアでの世界会議から3カ月が経った。あれからアメリカとは仕事の場以外では口を利いていない。どちらからともなく避けてしまって、今に至る。俺としてはこれ以上話すことはないし、あいつとしても事態を整理しきれてないのだろう。このまま何事もなかったように忘れて、元に戻れたらいいんだけどな・・・。都合が良すぎることは承知の上で、そう望む。こんな気まずい関係は嫌だ。あいつの馬鹿みたいに明るい笑い声が聞けないのは正直寂しいんだ。 最近は国政も落ち着いているので、この週末は久し振りにオフが取れた。自宅でのんびり刺繍をしているとベルが鳴って来客を知らす。どうせ暇な隣国の髭だと思い、なんだよとドアを開けるとアメリカが立っていた。 「やぁ」 「・・・アメリカ」 ぎくりと固まる。先日別れ際に言われた台詞を思い出して、気軽にドアを開けた事を後悔する。 「お、お前っ・・・来る時は事前に連絡しろと・・・」 「しないよ」 「あ?」 「したら君は・・・居留守使って逃げるだろう?」 「・・・・・・っ」 まるっきり図星だったので、思わず目を逸らしてしまった。それに対してアメリカは細く溜息を吐くと。 「・・・話、しに来たんだ。ちゃんと話し合おう」 どうにかして追い払いたかったがそうもいかず、俯いて仕方なく部屋に通す。ソファに座るアメリカに紅茶を用意して、気まぐれに焼いていたスコーンを供に出す。向かいのソファに座ると、アメリカは皿に手を伸ばしてスコーンを取った。 「・・・相変わらず黒いね」 「るせぇな、いきなり来て文句抜かすんじゃねぇよ」 「別に連絡して来たって変わらないだろ?」 「ばっばかにすんな!今日はたまたまちょっとばかり焼き過ぎただけだ!」 「ちょっとね・・・たまたまね・・・」 嫌みったらしくアメリカはスコーンを持ち上げてじろじろ眺めている。 「い、嫌なら食うな!」 取り上げようと手を伸ばすと、手首を掴まれた。驚いてアメリカを見ると真剣な水色の瞳を向けられて、慌てて振りほどく。 「食べるよ、君が作ったんだから」 「・・・へ?」 言うなり、がぶっとでかい口を開けて食べると、もぐもぐごっくんと咀嚼して飲み込んだ。なんだ結局食うのかよ、なら最初から文句言うなよな・・・。座り直して紅茶を口に含むと、アメリカのしみじみとした感想が耳に入る。 「・・・君の味がする」 ぶっ!思わず紅茶を噴き出してしまった。 「え、エロい言い方すんなっ」 「だって本当なんだよ。このスコーンも紅茶も何もかも、君が作ってくれた物は君の味がするんだ」 「知るかばかぁ!独創的な味で悪かったな!」 全身が熱くなる、動悸が激しい。誤魔化すように怒鳴ると懐かしむように紅茶を飲まれて、一層落ち着かなくなった。 「さてと」 アメリカが空になったカップをかちゃんとソーサーに置いて、前置きを口にする。 「話し合おうか」 「・・・話し合う事なんかない」 ふいっとそっぽを向いてアメリカから目を逸らす。 「あるよ。とても大切な話がね」 「俺はそんな話したくない」 「ダメだよ、逃げるのは許さない」 強い口調で言われるが知った事じゃない。意固地に顔を背けていると。 「・・・お願いだよ。君が抱えてる思いを、俺にぶつけて欲しい」 今度は切ない声音で懇願して来た。 「嫌だ」 「ちょっ・・・即答かい!?」 「そんな話は紅茶がまずくなるから嫌だ」 ふいっと顔を背けたまま、身体も横を向ける。耳に手をあてて、完全に話を聞かない体勢であることを示す。もう諦めてくれ。そう願っているのに。 「・・・この意地っ張りっ」 アメリカは苛立ちを隠さず舌打ちをすると。 「じゃあ、そーゆー話したくなってもらおうか?」 ゆらりと立ち上がってテーブルを回って近付いて来た。怒気がこもった低い声音にたじろいで思わずソファの端に逃げる。 「お、お前っそーゆーのもやめろよな!」 「そーゆーのってどんな?」 「だから・・・っ」 「言ったよね?諦めないって」 強い意思を感じて怯む。つうか怖ぇよ、そんな顔して見下ろすなよ。 「おお俺はダメだ、無理だっ」 首をぶんぶん横に振って精一杯の拒絶を表す。 「・・・どうして」 「どうしてもだっ」 「理由を言ってくれなきゃ引き下がれないよ」 「言えば諦めるのか!?」 「諦めないよ」 即答だった。何とか言いくるめれば諦めてもらえるかもという期待はあっさり砕かれた。 「んじゃ言うだけ無駄じゃねーか!」 「でも考える時間はあげるよ」 「考えるって何を・・・?」 「俺と付き合うかどうか」 「そんなの答えは決まってる!ノーだ!」 深く考えずに口走ってしまった。口にしてから・・・まずいと気付く。 「・・・イギリス」 押し殺したような静かな声が降って来る。 「な、何・・・」 「俺をそんなに怒らせないでくれよ」 怒りを孕んだ声に背筋が凍る。 「お、俺は別に・・・」 「でなきゃ、何するかわからないよ・・・?」 アメリカの瞳に欲情がちらついたのを見て・・・ぞっとする。 「おまっ・・・脅す気かよ・・・っ!」 悲鳴をあげる。心底怖い。身体がガタガタと震える。 「じゃあどうしてダメなのか、教えてくれるかい?」 「そ、れは・・・」 「・・・俺のこと、嫌いかい?」 「違う!」 哀しそうな顔で言われたのに思わずきっぱり否定すると、アメリカは驚いたように瞬いた。 「・・・でも、君は俺のこと・・・」 迷うように口籠る。しばらく間を置いてやっと口を開くと。か細い声で「憎んでいるだろう?」と言った。 「・・・は?」 間抜けな声が出る。何故そうなる。まったく理解できずにきょとんとアメリカを見つめると。 「・・・俺、知ってるんだぞ」 ムキになって口を尖らして言い募る。 「何が」 「君の本音」 「あ?」 「君は結局・・・俺の事を憎んでるんだ」 「お前何言って・・・」 眉を顰めて意味がわからないと言うと。 「もう誤魔化すのは止めてくれよ!」 感極まって唇を戦慄かせる。子供が癇癪を起したように身を震わせて、昂った感情を露わにした。 「恨み事なら俺に直接言えばいいじゃないか!いつまでも黙って陰でねちねちと!・・・もううんざりだ!!」 「待てよ、何の事か・・・」 「まだ・・・くそっ!!」 きしりと歯を軋ませる。激昂してガンッとテーブルを蹴ると、それは呆気なく転がり、上に乗っていたティーセットがガチャガチャと音を立てながら床に落ちて砕けていった。 「な・・・っ!」 普段は明朗快活なアメリカの突然の乱暴な振る舞いにショックを受ける。青ざめて床に散乱するそれらを眺めていると。 「――そこまで頑なだと、本当にこちらも手段を選ばざるを得ないね・・・今すぐ憎いと思わせてあげようか?」 アメリカは俺の頭の両脇に手をついてぎしりとソファを軋ませながら身を寄せてくる。それでも俺は悲惨な有様のテーブルの方から目を離せない。 「ねぇ・・・今ここで嫌がる君を無理矢理抱いたら、憎いと言ってくれるかい・・・?」 キスでもしようというのか、寄せられた顔の左頬を・・・そぶりを見せずに力の限り思い切り殴る。予想外の攻撃にアメリカはあっさり吹っ飛び、尻餅をついた。 「ざっけんな!んなことしなくても今俺は心底てめぇが憎いよ!!」 アメリカが左頬を手で抑えながら目を見開く。次いで昏い笑みを浮かべて嗤った。 「ははっ・・・やっと聞けた・・・」 その胸倉を掴んで怒鳴りつける。 「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ馬鹿野郎!俺のティーセットに何してくれてんだよ、あぁっ!?」 「え?」 「お、俺のお気に入りのアンティークだったのに・・・」 「・・・そっちかい」 涙目になって訴えると、アメリカは憮然とした。はぁっと溜息を吐いてから手を離す。 「ったく、わぁったよ。何が聞きたいんだか知らねぇけど、話してやるよ。お前何か勘違いしてるみてぇだし」 「・・・勘違い?」 「でも、その前にだ」 じろりと睨んでテーブルの方をくいっと親指で示す。 「あれ、片付けるぞ」 アメリカは渋々頷いた。 割れたティーセットの破片を二人して重ねていく。慎重に作業する俺の横でアメリカの手つきはぞんざいなものだった。 「・・・気をつけろよ、手ぇ切るぞ」 「うるさいな、平気・・・痛っ!」 見るとアメリカの親指に朱が走っている。予想を裏切らない結果に思わず溜息が出る。 「言ってる傍から・・・」 「き、君が余計な事言うから気が散ったんだぞ!」 喚くアメリカの手を取って、切れた指を口に含む。 「・・・っな、・・・・・・っ」 親指を舌先で舐めると口内に血の味が広がる。ふと見上げるとアメリカの顔が真っ赤になっていた。それを見てふっと笑う。 「・・・お前今、エロいこと考えてただろ」 「ち、違・・・っ」 否定しながらも益々赤面していく。 「ばぁか、んな事くらいお前がガキの頃散々してやっただろうが。変な想像してんじゃねーよ」 手を放り投げて絆創膏を取りに行こうと立ち上がると。 「き、君は意地悪だ・・・っ」 恨めしげな声が追い掛けて来て、思わずくすりと笑ってしまった。 手当てをした後邪魔なアメリカをソファに座らせて、結局一人で片付けを終えた。テーブルを元の位置に戻して、安物のプラスチックのコップに紅茶を入れ直して置く。 「・・・今度テーブルに八つ当たりしたら、即刻追い出すからな」 「わ、わかってるよ・・・悪かったよ」 冷静になると先程の自分の行動が恥ずかしくなったのか、居心地悪そうに謝った。その様子を呆れたように見てからコップを手に取る。 「・・・あのティーセット、大切な物だったのかい?」 俯いてぼそぼそと尋ねるアメリカをちらりと見てから、コップの中の水面に目を落とし、ぼんやりと過去の面影を思い浮かべながら答える。 「・・・昔、早世した王女に貰った物だ」 「・・・え」 「言わば、彼女の形見だな」 「そ、んな大事な・・・」 形見という重い言葉に愕然として固まった。 「ご、ごめん・・・ごめんよ・・・」 「もういい。仕方ねぇよ、所詮割れ物だからな」 悄然として泣きそうな顔で謝るアメリカに肩を竦める。 「でも・・・」 「いいって。俺も色々言い過ぎたし」 それでもアメリカの目から涙がぽたりと零れた。 「・・・君は、本当に英国を愛しているんだね」 「そりゃ、まぁ・・・」 突然何を言い出すのかと訝しむ。 「でも、それはお前も、俺達皆そうじゃないか?」 自国を愛するのは本能みたいなものだ。普通のことだろ?首を傾げる。 「そうだけど、君のは特に・・・特別っていうか、英国だけを心から敬愛してて、他を一切顧みてない気がする」 「・・・んな事・・・」 ねぇよ、と言う言葉を苦い思いで飲み込む。 「あるよ。君は、英国しか見てない・・・とても愛してて・・・だから」 ふるりと震えてから真っ直ぐこちらを見据えて。搾り出すように言った。 「だから君は。英国民を傷付けた俺をまだ赦せないんだろう?」 「・・・は?」 目を瞬かせる。え、何言ってんだこいつ。 「俺、知ってるんだぞ。君がまだ、俺を憎んでるって」 「いや知ってるって・・・何でそんな断定なんだよ」 「見たから」 「何を?」 「君は覚えてないようだけど、俺は独立してから一度、君に会いに行ったんだ」 「・・・いつ?」 「君と最後に争ってから、30年くらい経ってたかな」 遠い昔の記憶を遡るが思い当たる事がない。 「ここに・・・来たのか?」 「そうだよ」 「何かの間違いじゃないか?その頃はまだ・・・」 「君は仕事以外では俺と会ってくれなかったよね。確かにベルを鳴らしても応答はなかったよ」 だよな・・・。会ったという状況が思い浮かばず、何が言いたいのかわからない。 「でも、開いてたから・・・中に入ったんだ」 「お前それ不法侵入」 「わかってるよ。だけど君と話がしたかったんだ」 「・・・・・・」 ふうと溜息を吐く。その頃の記憶はあやふやで、良く思い出せない。それでも荒みきっていた自分がまともな対応をできたとは思えない。恐らく罵詈雑言の恨み言でも喚き立てたんだろう。だから仕事以外では会わないようにしてたのに。 「・・・そりゃ散々に責めたんだろうな」 「いや、何も言わなかったよ。何も・・・一言もね」 アメリカは暗い顔を俯かせて、握り締めた己の手を眺めてる。 「でも、瞳が語ってた。赦さないって・・・俺が憎いって。物凄い目だった。正直怖くて・・・すぐ帰ったよ」 ようやく心中を打ち明けて落ち着いたのか、ほうっと息を吐いた。けど聞いたこっちは逆に混乱だ。なんだよそれ、全っ然覚えがねぇ。そりゃお前の独立直後はショックだったから、お前を恨んだりもしたけど・・・でも、だからといって。 「いつの話だよ、独立直後だろ!?そりゃその頃は恨みもしたさ!でもそっから何年経ったと思ってんだよ!もう恨んじゃいねぇよ、そこまでしつこくねぇよ!」 一気にがなり立てると、さも心外だと言わんばかりの顔をする。 「だって未だに恩知らずだなんだって責めるじゃないか。言っとくけど君の執念深さといったら蛇のようにしつこいからね!自覚ないようだけど!」 「執念深くて悪かったなぁ!」 つい売り言葉に買い言葉を口に乗せてしまうと。 「なんだ、自覚あるのかい」 ふん、と鼻を鳴らした。 「いやだから勘違いすんなって。お前の独立絡みはもう遠い昔の事だ。何ともねぇよ。まぁたまに民の声が聞こえてきたりはするけど・・・」 「・・・声?」 「あ、いや・・・」 言ってはならないことをつい漏らしてしまい、慌てて手で口を抑える。けど、後の祭りだった。 「民の声か・・・成程ね」 まずい。瞳から光が失われた。アメリカの抱える闇の深刻さに気付いて背筋が凍る。 「そうか・・・君の所の国民が、まだ俺を赦してないんだね・・・。君にはどう聞こえてるのかな?裏切り者を赦すな、憎めって?こんな感じかい?でもそれって、取りも直さず君の本心だろ?」 「ち、違ぇよ馬鹿!いや、声が聞こえるのはマジだけど、そんなんじゃなくて・・・」 「ふぅん?」 「いやだからお前が思ってるようなんじゃなくてっ」 慌てて言い募るがアメリカに届かない。どう言えば良いのか・・・混乱した頭では言葉にならず、焦燥感が胸をじりじりと焦がす。ふと、アメリカが昏い笑みを浮かべる。 「声が聞こえると言ったね、そんなの俺も一緒だよ。君を赦さないという声が聞こえるよ?何故だかわかってる?忘れたとは言わせないよ。君が殺したんだ、俺の国民を。たくさんの銃で撃ち抜いて殺したんだ。俺は忘れない、君が俺の民にした事を。真っ赤に染まってた、あの時の空と大地の色を。俺は絶対に忘れない・・・。それは俺が国だからだ。国の、民意の固まりだからだ」 「・・・・・・っ」 いきなりアメリカの暗い情念にあてられ、息を呑む。 「だから俺も」 靜かな目を向ける。 「俺も、君を赦さない」 言うなり、ふっと表情を和らげて肩を竦める。 「君と同じだよ」 「・・・それが、てめぇの本音かよ」 心が一気に冷えた。何かとても大切なものが砕けたのがわかった。胸が痛くて苦しくて息ができない。 「そうだよ」 「そうかよ・・・」 身体がぶるぶる震える。でも気付かれたくない、ぎゅっと拳を固めて歯を食いしばって耐える。 「イギリス」 「ははっ俺を好きだなんだって適当な事言いやがって・・・」 「話は最後まで聞くべきだよ」 「まだ何があるってんだ。今度は愛してるってか?世迷言は止せ」 「イギリス!ちゃんと聞いてくれよ!」 ふいっと顔を背ける。くそっ不覚にも涙が浮かんでしまう。ダメだ泣くな泣くな――俺にその資格はない。泣いてはダメだ。なのに溢れた涙はぽろぽろと頬を伝って落ちる。アメリカは唖然としている。 「・・・なんで泣くんだい?」 「うるせっこれは水だ!」 「泣いてるんだろ?・・・どうして」 「水だっつってんだろ!?泣いてなんかいねぇよ!見るな!」 泣き顔をアメリカに見られたくない。アメリカの顔を見たくもない。だから顔を両腕で隠した。ぎしっとソファが音を鳴らす。そっと気遣うように肩に手を掛けられ、びくりとして横を見ると、隣にアメリカが座っていた。 「お前っ帰れよ!」 「まだ話は終わってないよ」 「恨み言なら聞いた!もう、これ以上・・・っ」 涙がぼろぼろ出てくる。くそっ情けねぇ。泣き止めよ俺! 「・・・君ってヤツは勝手だね。自分はねちねち恨んでるくせに、俺もそうだって言えば泣くんだね」 「うるせぇな、ほっとけよ!どうせ俺が全部悪いんだろ!?言われなくてもわかってるよそんなのは!」 「だから最後まで聞いてくれよ!さっきのは昔はそういう声もあったってだけなんだから」 アメリカに両の手首を掴まれて強引に引っ張られ、真っ正面に向き合う。 「そうだよ、あれからもう200年以上経っているんだ。それこそ今更だよ!俺の所の国民はもう、君を恨んだりしてないよ。愛しいって思ってるよ。俺も」 涙に濡れた頬をアメリカの温かな両手が包み込む。 「君が愛しいんだ。今こうして触れてる、君が・・・好きなんだ」 「アメ・・・」 言葉になる前に口づけられる。一気に地獄と天国を味わって混乱した頭では動けない。不安そうに揺れる水色の瞳をただ呆然と見つめる。嬉しい・・・愛しいと言われた・・・嬉しいに決まってる。だって、俺だって。 「――――!」 思考が弾ける。手が勝手に動いてアメリカを突き飛ばした。 「ダメ、だ・・・俺はダメだ・・・!」 カタカタと身体が震える。唇が戦慄く。頭の中で警鐘が鳴り響いてる――ダメだダメだダメだ。 「・・・やっぱり。そんなに、君の恨みは深いのかい?」 アメリカが哀しそうな顔をしている。 「ち、が・・・そうじゃない・・・そうじゃなくて、俺が、赦されてないんだ」 「それは・・・どういう・・・?」 予想外の言葉を耳にして訝しげに見つめられる。 「ダメだダメだ・・・」 譫言のように繰り返す。自分に言い聞かせる。流されてはいけない、こんな風に触れ合うことは赦されていない。 「ねぇ・・・イギリス」 肩に乗せられた手を反射的に払う。 「・・・もう、止めてくれ・・・俺には無理だ、受け入れられない」 アメリカの顔をまともに見れない。俯いてぎゅっと目を瞑って懇願する。 「頼むよ・・・苦しいんだ・・・」 「どうして・・・」 「・・・・・・」 これ以上聞かないでくれ。言ってもどうにもならないんだ。俺にだってどうにも――。 「どうして、だって君は」 |