USA


 果てしなく、どこまでも果てしなく溜息が出る。
「君、ねぇ・・・」
 無関心でなかったのは喜ばしいけども。関心の方向性がどうしてそこまで途方もなく阿呆なんだ。
「ん、なんだ?」
 対するイギリスは俺の様子など一向に鑑みず、ニコニコ笑ってる。実は性質の悪い嫌がらせなんじゃないかと深読みしたくなる程に。
「とりあえず、休憩時間に入ったらこの件きっちり説明してもらうよ」
 言って顔を背け会議資料を手に取ると、彼は「了解」と言って自分の席に戻って行った。ついでに「俺のオススメ3人いるんだ」と余計な台詞を吐きながら。


 昼休憩に入り、各国それぞれ昼食を取る為に席を立つ。俺も空腹を満たしたいところだけど、胸がムカムカしてやりきれないので、とにかくイギリスをとっちめることを優先させる。そう思ってイギリスの方を向くと、彼は嬉々とした表情で席を立ち、傍に来た。
 連れ立って空いている小会議室に入る。入ってすぐ、くるりと向き直って彼を間近に見据えて。
「で。さっきのみ・・・みあ・・・」
「見合い写真だろ」
「そ、それ!なんでそんなこと考えたんだい?」
 手を腰にあてて拗ねたように口を窄ませて聞くと、彼は悪びれもせずに答えた。
「いやだってお前、この間俺が紹介したサラのこと、タイプじゃなかったって言ったろ?」
 言ったっけ?あの時はめちゃくちゃ腹が立っていたから、正直自分が何を言ったのか覚えてないよ。
「それで日本に相談したら、いきなりデートじゃなくて色んなタイプを取り揃えて、お前にデートの相手を選ばせた方がいいんじゃないかって」
「え、に、日本に相談て・・・」
 まさかこんなこと話したのか?ほんとに君の正気を疑うよ!ていうか日本も余計な入れ知恵を・・・!
「ほら、よりどりみどりだぞ。ちなみに俺のオススメはだな・・・この黒髪のセクシーな娘と、こっちのブロンドの・・・」
 朗らかにページをぺらぺら捲って見せる。あぁもう!
「イギリス!」
 彼の手首を掴んでその動きを止める。きょとんと俺の顔を見返す彼に向かって、きつい口調で言ってやる。
「女の子の紹介とか、もう止めてくれないか」
「え、でもお前・・・」
「俺、彼女が欲しいわけじゃないんだ。ちゃんと、」
 途端、言葉が詰まる。ぐらりと心が揺れる。続く言葉をどう扱えば良いのか戸惑う。だって、ずっと抑えて隠して気付かないフリしてたんだ。でも、彼を、前にして。自分の気持を偽れるのか?
 心の中で唐突に葛藤してる俺に対して、彼は何を思ってるのか、じっと目を逸らすことなく俺の言葉を待っている。綺麗な、翠の双眸。
「・・・好きな人が、いるんだ」
 その瞳を前に、もう、自分の気持ちを誤魔化すことなど、できなかった。
 あぁそうだ。俺は好きなんだ、君のことが。


「マジか?どんな女だよ」
 思いがけない返答に驚いたイギリスが、目を丸くして聞いてくる。
「そうだな・・・」
 彼の顔をまともに見ていられず、ふいっと視線を逸らして思いを巡らす。
「その人は、意地っ張りで頑固で偉そうで態度悪くて口も悪くて足癖も悪くて酒癖も悪くて、神経質なくせに料理は下手くそでがさつでお節介で鈍くて鈍感でどうしようもなく馬鹿で・・・」
 あれ。口を突いて出る言葉は悪口ばかりだ。
「人のことばかばか言うけど、自分の方が途方も無い馬鹿で」
「・・・お前、そんな奴のどこが良いんだ?」
 あ、イギリスが呆れ返ってる。半眼でじとっと見られてる。ていうか気付いてよ、君のことだよ。
「俺にもわからないよ」
 無意識に溜息が出る。ほんと、どこが良いんだろう。
「でも、好きなんだ・・・」
 彼の優しいところ、いっぱい知ってるからかな。WW2後はお互い良い関係築いて来てるしね。あぁでもそれよりもっと前かも。独立して・・・からじゃないよね。もっと前。もしかすると、あの何もない広い荒野で初めて出逢った時から。俺は、君のことが好きなのかも。
 ぼんやり彼と出逢った時に思いを馳せていると。
「じゃあ俺も協力してやるよ」
 いきなりそんな宣言をしてくれた。ムカっ。君の協力なんていらないよ。そもそも君に何ができるんだい?フラグクラッシャーの自覚してくれよ。あ、でもうまく事を運べば彼に告白するチャンスになるかも。そうだ、この間できなかったデートをしよう。
 そう心に決めて。
「サンキュ、それじゃデートの下調べに付き合ってくれよ」
 にっこり笑って、彼にはナイショのデートに誘った。





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